借手のリース期間について

前回のコラムで借手のリース負債の算定について学びましたが、今回はそれに関連する『借手のリース期間』の論点を解説を行います。

前回のコラムでも見たように『借手のリース料』をリース負債の計算に含めることになるため、そのリース期間について見積りもが必要になります。

以前の基準におけるファイナンス・リース取引では期間が論点となることはほとんどありませんでしたが、今回の改正で原則全てのリース取引がリース負債計上の対象となるため、途中解約可能なものや延長・更新オプションが存在するものなど多様になり、そのそれぞれについてリース期間をどう確定させるかという論点が重要論点として浮上することになりました。

このような解約・延長・更新オプションは、借手が義務を負っているリース期間と異なり借手側に選択権があるため、会計処理上の「リース期間」に含めるべきかについては慎重な検討が必要です。

本論点についてリース基準(案)及びリース適用指針(案)ではどのような結論になっているのか、見ていきたいと思います。

1.リース期間を解約不能期間に限定すべきか否か

借手のリース期間は借手が貸借対照表に計上する資産及び負債の金額に直接的に影響を与えるため、この検討は非常に重要なのですが、前章でも述べたようにリースに様々なオプションが付いているケースがあるため一義的には決定することができません。

最終的な公開草案の結論に至るまでに様々な議論が行われ、これからそれを見ていきますが、ここではまず『リース期間を解約不能期間に限定すべきか』という論点について見ていきます。

解約不能期間を超える延長オプションをリース期間に含めるべきか、また同じような論点で、リースの期間の終了前の解約オプションをリース期間に含めるべきかについて問題提起がなされたようです。

これはどういうことかというと、解約不能期間を超える延長オプションの解約不能期間を超える期間またはリースの期間の終了前の解約オプションにおける解約オプション行使後からリース期間終了までの期間はどちらも、延長オプションが更新されない(または解約オプションが行使された)場合には存在しないことになってしまうため、リース期間を解約不能期間に限定してオプションの存在を考慮しないのが妥当なのではないかという考えです。

すなわちこの考え方によれば、将来のオプションの期間中に行われる支払は、当該オプションが行使されるまでは負債の定義を満たさないということになります。

リース基準(案)ではこれに対する反論として以下の3つが提示されています。


(1) 2 年の延長オプションが付いた3年のリースは、経済的に3年の解約不能リースと同様の場合もあれば、5 年の解約不能リースと同様の場合もある。オプションが付いたリースは、オプションが付いていないリースと全く同じとはならない。


(2) リースの延長オプション又は解約オプションはリースの経済実態に影響を与えるため、リース期間を決定する際にはオプションの対象となる期間の一部を含める必要がある。借手が延長オプションを行使することを見込んでいる場合、当該オプションの対象期間をリース期間に反映する方が、リースの経済実態をより忠実に表現することになる。


(3) オプションをリース期間の決定で考慮することにより、例えば、借手にオプションを行使する明らかな経済的インセンティブが存在する場合に、当該オプションの対象期間をリース期間から除外することによってリース負債を貸借対照表から不適切に除外するリスクを軽減できる。

これらの理由はどれももっともで、もちろんオプションを考慮することが経済的実態を反映しないようなケースも想定できるのですが、⑴⑵のようにオプションを考慮することで経済的実態により近くなることも理論上考えられる以上、オプションを考慮しつつどうオプション分をリース期間に反映させるかを考える方が建設的です。

また、特に⑶については、会社として負債をオフバランスすることによって自己資本比率などの財務数値を良くすることができるインセンティブがある以上、(理論上の多少の瑕疵があったとしても)これを助長、誘導する可能性のある会計処理を認める訳にはいかないのが実情であったと思われます。

2.リース期間を『合理的に確実』である範囲とすべき理由

公開草案では、借手が延長オプションを行使することまたは解約オプションを行使しないことが「合理的に確実」である範囲でオプションの対象期間をリース期間に含めるように求める記載があります。

つまり、延長オプションについては解約不能期間にオプション行使が合理的に確実な期間を加算し、解約オプションについては行使しないことが合理的に確実かどうかの判断を行う事になります。

この『合理的に確実』という概念の肝は、リースを継続するという方向に対して『合理的に確実かどうか』と考えると理解しやすいです。

この『合理的に確実』という概念はIFRS第16号より流用されたものなのですが、前身のIAS第17号の頃から使用自体はされていました。しかしその具体的な角度についての定義はなく、IFRS第16号においてもこれは同様です。

また、米国基準のTopic842でも同様に『合理的に確実』という概念があります。

ただしTopic842の方は「高い閾値」であることが基準上強調され、IFRSより若干保守的、つまり短めにリース期間が見積もられているともいわれています。

日本基準も最終的にはこの『合理的に確実』という概念を最終的には踏襲することになりました。

議論の中で、「蓋然性」などの既存の表現を用いることも検討されたようですが、蓋然性=reasonably certainと同程度の閾値を示すとの誤解が生じる懸念があることもあり、IFRS第16号における蓋然性を取り入れていることを明らかにするために、『合理的に確実』という表現が用いられています。

上記の「蓋然性」はいったん棄却されましたが、検討が面倒だからといって適当な理由を付けて何でもかんでも『リース期間=解約不能期間』のような処理をするのは基準の趣旨と異なるので注意しましょう。

現実的なシナリオとして、延長が想定されない期間より長い期間をリース期間としたり、解約が想定されないような期間より短い期間をリース期間としたりすることは許容されません。

3.IFRSとの整合性を重視した理由

ここまでの議論はIFRS第16号の開発時にも全く同じ内容が検討され、公開草案の最終的な結論としてもこれを踏襲しました。

すなわち『借手のリース料』のリース期間は、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に対して、借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間と借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間を考慮して決定することになります。

リース基準(案)ではこれについて


(1) 存在するオプションの対象期間について、企業の合理的な判断に基づき資産及び負債を計上することが、財務諸表利用者にとって有用な情報をもたらすものと考えられる。


(2) 借手のリース期間をIFRS第16号と整合させない場合、国際的な比較可能性が大きく損なわれる懸念がある

といった理由が述べられています。

今回のリース期間についての定めは、まとめると⑴会計上の合理性及び開示上の有用性がある、⑵コンバージェンスに資するという内容となります。