収益認識基準とポイント制度
新しい収益認識基準の導入以降、収益認識に関して様々な論点が加わりました。
今回は、以前の会計基準で『ポイント引当金』として処理されていた『ポイント制度』の会計処理について解説をしていきます。
ポイント制度に関して収益認識基準制定前は、会計処理についての一般的な定めがありませんでした。
ポイントの会計処理は実務上、将来にポイントとの交換に要すると見込まれる費用を引当金として計上する処理が主でした。
発行ポイントに対する引当金計上割合の定めもないため、前年度の使用実績に応じてポイント引当金を引き当てているケースが多かったようです。
収益認識基準の公表を機に、ポイント引当金の処理は認められなくなり、今回解説するような『追加の財又はサービスを取得するオプションの付与』の論点に包摂されますので注意しましょう。
1.ポイント引当金の会計処理について
顧客の囲い込みや販売促進を目的として、商品の販売やサービスの提供の際に、将来新たな商品やサービスの購入時に利用することで利用相当額の値引を受けられるポイントを付与することがあります。
飲食店、百貨店、ドラッグストア、楽天やAmazonといったECサイトなど小売全般に広く普及しているので想像は付きやすいと思います。
さて、このようなポイント付与を企業が行った場合、どのような会計処理を行うのが適切なのでしょうか?
収益認識の適用指針では、『追加の財又はサービスを取得するオプションの付与』としてこのようなケースを定義して、以下のように定めています。
顧客との契約において、既存の契約に加えて追加の財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合には、オプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときにのみ、そのオプションから履行義務が生じる。なお、追加の財又はサービスを取得するオプションには、販売インセンティブ、顧客特典クレジット、ポイント等が含まれる。
この場合には、将来の財又はサービスが移転する時、あるいは当該オプションが消滅する時に収益を認識することになります。
つまり、ポイントに関して企業が負う義務の性質に応じて会計処理を行うので、自社ポイントの付与が契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利に該当する場合には、企業が付与したポイントは別個の履行義務(追加の財又はサービスを無料又は値引価格で取得するオプションとしての履行義務)として会計処理されることにます。
この場合、取引価格の一部がポイントに配分され、商品の販売時やサービスの提供時ではなく主としてポイントの利用時に収益が認識されます。
2.追加の財又はサービスを取得するオプションは契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利でない場合
一方で顧客が追加の財又はサービスを取得するオプションが、当該財又はサービスの独立販売価格を反映する価格で取得するものである場合は、顧客に重要な権利を提供するものではないという整理になります。
こうした場合は、既存の契約の取引価格を追加の財又はサービスに対するオプションに配分せず、別個の履行義務としては認識しません。
3.オプションの独立販売価格を観察できない場合
自社ポイントの付与が契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利に該当する場合、履行義務への取引価格の配分は、独立販売価格の比率で行うこととされています。
しかし、追加の財又はサービスを取得するオプションの独立販売価格を直接観察できない場合はどのようにしたらよいでしょうか?
適用指針では、オプションの行使時に顧客が得られるであろう値引きについて、次の(1)及び(2)の要素を反映して、当該オプションの独立販売価格を見積ることになると記載されています。
(1) 顧客がオプションを行使しなくても通常受けられる値引
(2) オプションが行使される可能性
なお、契約更新に係るオプション等、顧客が将来において財又はサービスを取得する重要な権利を有している場合で、当該財又はサービスが契約当初の財又はサービスと類似し、かつ、当初の契約条件に従って提供される場合には、オプションの独立販売価格を見積らず、提供されると見込まれる財又はサービスの予想される対価に基づき、取引価格を当該提供されると見込まれる財又はサービスに配分することができます。
4.事例解説
収益認識基準はIFRSの翻訳の問題もあり、非常に抽象的で分かりにくいため事例による解説をさせていただきます。
■前提条件
⑴A社は、A社の商品を顧客が100円分購入するごとに1ポイントを顧客に付与するポイント制度を提供している。顧客は、ポイントを使用して、A社の商品を将来購入する際に1ポイント当たり1円の値引きを受けることができる。
⑵X1年度中に、顧客はA社の商品10,000円を現金で購入し、将来のA社の商品購入に利用できる100ポイント( =10,000円÷100円×1ポイント)を獲得した。対価は固定であり、顧客が購入したA社の商品の独立販売価格は10,000円であった。
⑶A社は商品の販売時点で、将来95ポイントが使用されると見込んだ。A社は、顧客により使用される可能性を考慮して、1ポイント当たりの独立販売価格を0.95円(合計額は95円(=0.95円×100ポイント))と見積った。
⑷当該ポイントは、契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するものであるため、A社は、顧客へのポイントの付与により履行義務が生じると結論付けた。
⑸A社はX2年度末において、使用されると見込むポイント総数の見積りを97ポイントに更新した。
⑹各年度に使用されたポイント、決算日までに使用されたポイント累計及び使用されると見込むポイント総数は次のとおりである。
×1年度 | ×2年度 | |
各年度に使用されたポイント | 45 | 40 |
各決算日までに使用されたポイント累計 | 45 | 85 |
使用されると見込むポイント総数 | 95 | 97 |
※なお、事例については、JICPAの『Q&A 収益認識の基本論点』より抜粋
■会計処理
⑴商品販売時の会計処理
現預金 10,000 /売上高 9,906
契約負債 94
販売時の会計処理の第一ポイントは、付与されたポイントの全てが契約負債の計算の基礎となる訳ではない点です。
表または設例を見ていただくとわかりますが会社は、失効するポイント等を考慮し、使用されるポイントを95と見積もっています。独立販売価格の比率を計算するときには、この見積もった方のポイントを計算します。
第二のポイントは、独立販売価格の比率の計算です。具体的には、売上高と契約負債の計算です。
まず、受け取った対価は10,000でこれは事実ですから、借方は現預金10,000で変えようがありません。
一方で、貸方側は、売上高と売上として実現していない契約負債(ポイント)に、この10,000の対価を配分する必要があります。
この配分計算の基礎となるのが独立販売価格の比率で、以下のように計算します。
売上高9,906 = 対価10,000 × 商品の独立販売価格10,000/(商品の独立販売価格10,000+ポイントの独立販売価格見積額95)
契約負債94 = 対価10,000 × ポイントの独立販売価格95/(商品の独立販売価格10,000+ポイントの独立販売価格見積額95)
⑵×1年度末
契約負債45 /売上高 45※
※45円 = X1年度末までに使用されたポイント45ポイント÷使用されると見込むポイント総数95ポイント×当初に見込んだ契約負債94円
契約負債を見積もったら、顧客のポイントの利用に応じてこれを取り崩します。
取り崩しの仕訳の第一のポイントは、取り崩しの基礎となるのは当初に見積った契約負債総額94ということです。顧客のポイント利用に応じてこの94を取り崩していかないと、ポイントが全て利用されたにもかかわらず契約負債がBSにプラスまたはマイナスで残存することになり合理的ではありません。
第二のポイントは、毎期見積もりなおした「使用されると見込むポイント総数」と累計の使用ポイントの比率で計算する点です。分母の「使用されると見込むポイント総数」が変わるので、使用したポイントが前期とまったく同じでも、取り崩し額が変わる可能性があります。
⑶×2年度末
契約負債37 /売上高 37
※37円 = (X2年度末までに使用されたポイント累計85ポイント÷使用されると見込むポイント総数97ポイント×当初に見込んだ契約負債94 円)-X1年度末に収益を認識した45円
×2年度以降は、上記のように×2年度までの累計金額を×1年度と同様に算定し、×1年度までの累計金額との差額で計算します。
いかがでしたか?
ポイントを負債としてBS計上するという点においては、収益認識基準公表前と同様ですが、これを売上高として認識するタイミングや計算方法が明確化された点において、以前の会計処理と大きくちがってきます。
慣れてきたら基準や適用指針も読み込んで、より深く理解してくださいね。