繰延資産の開発費処理と研究開発費の違いについて

研究開発費の会計処理として、前回のコラムでは研究開発費の範囲と

研究・開発に含まれるか否かの判断及び含まれない典型例について、ここで解説します。

今回は、前回解説ができなかった論点、特に繰延資産の開発費処理と研究開発費の違いについて解説をしていきます。

1.研究・開発の範囲

研究・開発の範囲については、活動の内容が実質的に研究・開発活動であるか否かにより判断すべきと考えますが、その範囲は、従来製造又は提供していた業務にはない新規のものを生み出すための調査・探究活動や現在製造している製品又は提供している業務についての著しい改良を含んでいます。

研究開発費の定義について非常に厳格に定められるのは、これによって資産処理となるのか、費用処理となるのかが違ってくるからでもあります。

つまり、現在製造している製品や業務を前提とした場合に、著しいと判断できない改良・改善などを行う活動は、ここでいう研究・開発には該当しないと考えられれます。


そのため基準では研究開発費の例示のみならず、研究開発費に該当しないものの例示も行われています。

研究・開発に含まれない典型例として、以下のようなものが例示列挙されています。


① 製品を量産化するための試作
② 品質管理活動や完成品の製品検査に関する活動
③ 仕損品の手直し、再加工など
④ 製品の品質改良、製造工程における改善活動
⑤ 既存製品の不具合などの修正に係る設計変更及び仕様変更
⑥ 客先の要望等による設計変更や仕様変更
⑦ 通常の製造工程の維持活動
⑧ 機械設備の移転や製造ラインの変更
⑨ 特許権や実用新案権の出願などの費用
⑩ 外国などからの技術導入により製品を製造することに関する活動

実務上はこれらの例示を参考に、監査法人とも協議しながら進めていくことになります。

2.繰延処理される開発費の範囲

現行基準においては、研究開発費は全て発生時に費用として処理しなければなりません。

対して財務諸表等規則第36条においては、繰延処理できる繰延資産の範囲として『開発費』の科目名が掲げられています。

研究費については最終アウトプットが判然としない中で行うのでこのように例外的に資産計上する場合を考える必要はありませんが、開発費はアウトプットが想定できている状況で支出されるので場合によっては資産計上する方が実態に合うというケースがあり、そのケースの一つをこれから解説します。

さて、研究開発費の基準で定義されている『研究開発費』のうちの『開発』費と、財務諸表規則における繰延資産の『開発費』との関係性はどのように整理されるのでしょうか?

まず大前提を確認します。前述のように研究開発費とは、企業自らが行った研究開発用途で支出される費用です。


その中でも開発費は、新技術開発や市場開拓の費用となります。

開発費のイメージがこれだけでは掴みづらいと思いますので、具体的な事例で説明します。

たとえば企業が新たに開発を行う場合、新たな経営組織の編成、採用活動などを行う事が一般的です。

また、開発を見込んだ投資計画、事業計画の変更、大規模な配置換えなどの人事的措置が行われることもあります。

こうした場合に、新技術導入のために人員を採用したりコンサルタントを雇用すること、市場調査のためにリサーチ会社を利用すること、経営コンサルタントなどを利用しパッケージで全般的な導入プログラムなどを実行することなどが開発費の具体例となります。

研究開発費に含まれる開発費は会計処理上、研究開発費のカテゴリーとなるので通常は営業外費用や販売費、一般管理費などで処理をしますが、一定条件のもとでは繰延資産としても計上できるというのが現行の会計における建付けとなっています。(なお、IFRSにおいては無形資産として研究開発費や開発費が資産計上されるケースもあるのですが、ここでは主に日本の事例を解説しているため、IFRSの処理についての説明は割愛します。)

この一定の場合に該当するケースの一つが開発費を繰延資産の『開発費』として計上する財務諸表等規則第36条のケースです。


しかし、研究開発費は会計基準に定められた通り発生時に費用として処理しなければならないにも関わらず、財務諸表等規則第36条でこれを資産計上できるとしたのにはどういった理論的背景があるのでしょうか?

これは、開発費のうち開発したものに資産的価値が認めらるケースがあるからというのが答えになります。

研究中に製作した試作品がSNS等で広告として利用できる場合、ガンダム等の玩具の新商品開発の過程で生じたサンプル品にコレクションとして価値があるとき等は資産性があると考えられます。

そうであれば、実態を忠実に反映できるよう資産計上すべきであろうということです。

このようなロジックで、上記ような例外的なケースにおいては、開発費を繰延資産として資産計上することができます。

会計的な整理をすると、開発費の効果が翌年以降におよぶため、経常的な費用ではなく特別な支出として繰延資産にするということです。

研究開発費としては整理した場合は発生した期に一括で費用処理されますが、開発費を繰延資産として資産計上した場合には、同額を効果が持続する期間において償却を行うため、費用が該当期間にわたって均質的に発生することになります。

当然利益にも影響があるので、予算計画などを立案する際は研究開発費の処理方針を勘案したうえで行う必要があります。

なお、従来用いられていた『開発費』の内容は、新技術の採用、新経営組織の採用、資源の開発及び市場の開拓までをも包含する広範な内容をカバーしていました。

しかし、研究開発費に関する意見書により研究(費)も含めた『開発(費)』を再定義したことにより、『開発』は、より厳格な定義となり、費用処理と資産処理の曖昧さがなくなりました。

4.特定の研究開発目的の機械装置等の会計処理

最後に、「研究開発費等に係る会計基準」注解によれば、特定の研究開発目的にのみ使用され、他の目的に使用できない機械装置や特許権等を取得した場合の原価は、取得時の研究開発費として処理することになります。

ここでいう「特定の研究開発目的にのみ使用され、他の目的に使用できない」とは、どういった意味でしょうか。

これは、特定の研究開発プロジェクトの目的のみに使用され、他の研究開発プロジェクトに使用することが機能的・物理的にできないことを意味しています。


例えばですが、特定の研究専用の測定機や試験設備などで、研究開発の所期の目的を達成した後には他の用途に転用することができず、廃棄してしまうようなものがこれに該当します。

したがって、会社が特定のプロジェクトのみに使用するという予定で取得した場合であっても、目的を達成した後に他の研究プロジェクトや営業の目的で利用することが可能なものはこの対象とはなりません。


なお、ここでいう特定の研究開発プロジェクトとは、会社内において予算・人事等の管理を行う単位で判断することが適当と考えられます。