株式上場準備における資本政策
資本政策とは、会社が株式公開をするにあたり資本と株主の構成を最適化するための計画です。資本政策によって、会社の資金調達・株式公開後の株主構成・株主の利益の最適化をはかることができます。
株式会社の運営においては、株主の持株比率が絶対的な力を持つため、株式公開の成功のために資本政策はとても重要です。そのため株式上場を目指す企業の資本政策は、上場後の株式の流動性を考慮しながら、資金調達と株主構成のバランスを取り、適正な資本規模や発行済株式数にします。
資本政策を立案する際には、具体的な株式の上場時期や上場する市場を決めた上で上場審査の形式基準を充足させ、事業計画に基づく必要資金と上場時の望ましい株主構成にするための募集株式(発行株式または自己株式)の割当や株式移動の方法、その実施時期等を検討します。
資本政策立案の手順
資本政策は実行後の修正が利きません。そのため上場準備の早い段階で綿密な検討をすることが重要であり、また上場時・上場後に適正な評価を受けるために投資家を意識した資本戦略を考える必要があります。
検討事項は以下の通りです。
・ 株主構成
上場することで一般株主が参入し、株主構成は上場前後で大きく変化します。そのためオーナーの経営権の確保や安定株主対策等を考慮しながら決定していきます。
・発行株式数の増加および資本規模
上場前までに増加させる会社の発行済株式数や資本規模は、利益や純資産等の上場時の一株当りの数値水準にベースに、類似企業との比較を行って想定株価水準を推定します。また上場後の株主還元や経済環境・市場の変化への対応可能性等を総合的に勘案した上でどの程度まで新株式を発行できるかの判断をします。
・オーナーの相続税対策(財産保全会社の設立等)の要否
財産保全会社の株式評価は、純資産から含み益の37%(平成28年4月1日以降。法人税、事業税、道府県民税及び市町村民税の税率の合計額に相当する割合)を減額できるメリットが残っていることから、株価が安い時に自社株を財産保全会社へ移動等すればメリットを享受できます。また、株式分散を防止(安定株主化)することにもなります。
・ 従業員持株会制度の導入の要否
・役員・従業員等へのインセンティブプランの検討
・第三者割当増資や株式移動の実施時期および税務上の配慮
・関係会社存続に関する経営上の合理性
- 資本上位会社・・・上場会社又は継続開示会社か、連結・持分法の適用の要否
- 資本下位会社・・・議決権割合や連結・持分法の適用の要否
資本政策の立案
上記検討事項が決定したら次に以下のポイントを踏まえながら資本政策の立案をします。
・ 事業計画と必要資金
事業計画に基づいた資金計画により上場までに必要な資金を算出し、会社の運転資金や設備投資資金などの調達方法を検討します。また、資金調達が、既存株主の議決権割合にどのような影響を与えるか考慮しながら、相続対策、安定株主対策、役員・従業員の持株対策と関連付けて決定します。
・安定株主対策
資本政策において最も重要な課題は安定株主対策です。外部株主からの資金調達を行いながら、将来の経営権を確保するための安定株主比率をいかに維持していくかがポイントです。
一般的に株主は、オーナー一族等、役員、従業員・従業員持株会、金融機関等、取引先、ファンドおよびベンチャーキャピタルト、その他に分類できます。
オーナーは絶対的安定株主ですが、役員、従業員・従業員持株会を含めた社内株主の議決権割合が過半数を占めることが望ましいです。オーナーに潤沢な資金がない場合には限られた資金で経営権をどこまで維持できるかを十分に検討する必要があります。
特にベンチャー企業は資金力や人材が乏しい場合が多く、ベンチャーキャピタル等の社外株主は資金調達やその他様々なサポートをしてくれる協力者として重要な存在となります。しかし、上場準備の初期段階で、外部株主の議決権割合が高くなるケースや、ベンチャーキャピタル等の投資回収によって株主構成が大きく変動するケースもあるため、綿密に立案された資本政策に従い適量の株式を保有してもらうことが大切です。
・資本政策のスケジュール
上場までの資本政策のスケジュールは、まず上記の検討事項の中で何に重きを置いて立案すべきかを決定します。その上で、資金調達が資本政策上の既存株主の議決権割合にどのような影響を与えるかを検討し、事業承継対策、安定株主対策、役員・従業員のインセンティブプラン等と関連付けて、「いつ、誰から、どのような手法」を取り入れるか決定していきます。
次回は資本政策の具体的な方法について解説していきます。