暗号資産の交換等に関する経理取引について①
令和 2 年 6 月 12 日、一般社団法人日本暗号資産取引業協会から『暗号資産取引業における主要な経理処理例示』が発表されました。
暗号資産取引の浸透に伴い、企業においても経理処理の必要性が増大しており、その会計処理について統一したひな形が必要とされていることに応えたものです。
今回の記事においては、上記の例示の内容のうち暗号資産の交換等についての経理処理取引についてまとめていきます。
1.利用者の金銭及び暗号資産の管理に関する経理処理
①利用者から金銭の入金を受けたときの仕訳
過去の記事でも解説したように、利用者から金銭の入金を受けたときは預り金として負債に計上します。
また、現預金を受領しますが、これらの現預金はあくまで利用者に帰属し、会社が自由に処分・使用できるものではないので通常の現預金勘定とは区別する必要があります。
現預金 ✕✕✕ 利用者からの預り金 ✕✕✕
利 用 者 区 分 管 理 信 託 ✕✕✕ 現 預 金 ✕✕✕
②利用者から暗号資産を受領したときの仕訳
利用者から暗号資産を受領した場合、同様に預り金を計上します。
また、①の場合と同様、自社が保有する暗号資産とは区別し『利用者暗号資産』勘定を用います。
利 用 者 暗 号 資 産 ✕✕✕ 利用者からの預り暗号資産 ✕✕✕
「利用者暗号資産」についてはさらに、自社管理する場合と第三者に管理させる場合が想定されます。
『例示』においてもこれらを区分するため下記のような明示があります。
・自社で管理するものは「保管暗号資産」
・第三者に管理させるものは「預け暗号資産」
したがって、特段の理由がない限りこれに沿った会計処理を行う必要があります。
2.利用者からの預り金を出金するときの仕訳
預り金が出金されたことで、顧客の預かり資産を返却する義務が消滅するため預り金勘定を消去するため借方に預り金が計上されます。
また、会社からキャッシュアウトがありますが、「1.利用者の金銭及び暗号資産に関する経理処理」でも見たように当該金銭は顧客に帰属するものであるため、現預金の貸方仕訳を即座に取消、過去に認識済の「利用者区分管理信託」勘定を取り崩します。
現預金 ✕✕✕ 利用者区分管理信託 ✕✕✕
また、これらの会計処理を原則としつつ、利用者からの出金申請を受けてから実際に出金処理が行われるまでの間、適切に分別管理がなされることを条件として、「未払金」等の勘定を経由することも妨げられるものではありません。
3.利用者からの預り暗号資産を払出するときの仕訳
利用者からの預かり暗号資産についても同様に、返却義務の消滅を会計上も認識するため借方に「利用者からの預かり暗号資産」勘定を計上します。
また、暗号資産の払出に伴って自社で負担した送付手数料(マイニングフィー)は支払手数料に表示します。
この場合のキャッシュアウトは自社に帰属する暗号資産であるため、顧客の暗号資産ではなく「自社保有暗号資産」を減少させます(貸方「自己保有暗号資産」)。
利用者からの預り暗号資産 ✕✕✕ 利 用 者 暗 号 資 産 ✕✕✕
支 払 手 数 料 ✕✕✕ 自 己 保 有 暗 号 資 産 ✕✕✕
※なお、利用者から暗号資産受払手数料を受け入れている場合は「その他の受入手数料」に計上するよう『例示』には注釈があります。
続いて、不明入金を受けたとき又は不明な暗号資産を受領したとき(不明受領)の処理について解説します。
不明入金及び自社で取扱っている暗号資産の不明受領については、入金元又は払出元が判明するまでの間、利用者から金銭の入金を受けたときや利用者から暗号資産を受領したときと同様、経理処理及び分別管理の対象として処理を行います。
ただし、利用者暗号資産受領用ではないアドレスにおける受領は、一般的に払出元が利用者ではないと考えられます。
したがって、会計処理としては「その他の預り暗号資産」に計上することができます。
利用者暗号資産受領用アドレスにおいて暗号資産を受領した場合は、利用者との契約で返還しないことを定めた暗号資産であることを条件として、「その他の預り暗号資産」に計上することができます。
自社で取扱っていない暗号資産や自社での取扱いを廃止した暗号資産については、自社から見ればビットコインなどの一般的に流通している暗号資産と変わらないため、活発な市場が存在する場合には、自社で取扱っている暗号資産の不明受領に準じて経理処理することになります。
最後になりますが、ここまで見てきた会計処理において計上した「利用者からの預り金」及び「利用者からの預り暗号資産」について、利用者との契約又は法令で債権の消滅時効が定められている場合には、当該消滅時効の日に雑益として計上することができます。
債権消滅時効の到来により、預り金・預かり暗号資産の返還義務も消滅するためで、会計上は利用者から自社への一種の贈与が行われたと考えられます。
なお同様の理由によって、上記で計上した「仮受金」及び「その他の預り暗号資産」についても、法令で債権の消滅時効が定められている場合であっても、当該消滅時効の日に雑益として計上することができます。