暗号資産交換業者が顧客から暗号資産を預かる取引(最新)

暗号資産交換業者が顧客から暗号資産を預かる取引について、過去に解説しています。今回の記事は前回の内容を踏まえた上で、最新状況なども加味して改めて、暗号資産交換業者が顧客から暗号資産を預かる取引について解説したいと思います。

↓過去の記事はこちら

暗号資産交換業者における顧客から預かった暗号資産の会計処理

1.暗号資産交換業者が顧客暗号資産を預かる取引の類型

金融庁財務局の登録を受けた暗号資産交換業を行う会社において、顧客から預かった暗号資産はどのように会計処理すべきか?

今回の記事ではこの点について考えていきますが、まずは顧客から暗号資産を預かるケースについて類型化してみたいと思います。

顧客から暗号資産を預かる取引は、主に以下の3つに分類できます。

1. 顧客から委任を受け、取引所で売却するために預かる場合

2. 顧客が交換業者を通じ、取引所、販売所で購入した後に預かる場合

3. 暗号資産の信用取引やデリバティブ取引の保証金または証拠金として預かる場合

次の章で見ていきますが、いずれのケースについても会計上は、顧客から預かった時点での時価によって貸借対照表の資産と負債に同額を計上することになります。

なお、暗号資産の場合、顧客から預かる行為は、顧客の暗号資産をその暗号キー等の保管を通じて暗号資産交換業者が保有することを意味します。

暗号資産交換業者は、資金決済法において、顧客から預かった暗号資産と自己の暗号資産を同時に管理することを義務付けられています。

利用者保護の観点から、顧客から預託受けた金銭・暗号資産を自己の固有資産と区分して管理する義務が定められているのです(資金決済法63-11①)。

2.会計上の取り扱い

暗号資産交換業者が、顧客から預かる暗号資産の会計処理について暗号資産会計基準では、次のように規定されています。

暗号資産会計基準14項によれば、暗号資産交換業者は、預託者との預託の合意に基づき、暗号資産を預かったときに、当該暗号資産を資産として認識します。

また、その認識した時点での帳簿価格は、預かり時点の時価により算定します。

一方で暗号資産交換業者の側は、預託者に対する返還義務を負債として認識します。

当該負債の認識時の帳簿価額は、預かった暗号資産に係る資産の帳簿価格と同額とします。

ただし、暗号資産は、以下で説明するように私法上位置づけが難しく、暗号資産交換業者が顧客から暗号資産を預かる取引をめぐる会計処理には曖昧な点もあるようです。

(例えば、暗号資産が民法上の所有権の対象とならないというような見解など)

ところで、これまでの実務慣行においては、原則として、預かった資産の法律上の権利が受託者へ移転するか否かが会計上の資産として計上するか否かのポイントでした。

しかし、暗号資産は、私法上の位置づけが明確ではありません。

したがって、法律上の権利の受託者への移転の判断を行うことができず、証券業取引業者が顧客から預かる現金、有価証券の取り扱い等を参考に検討が進められたという経緯があります。

ここで、証券業取引業者における信託の処理方法を見てみましょう。

現金については、分別管理を行なうため証券会社は信託銀行等に信託し、会計上は流動資産と流動負債同額を計上する会計処理を行います。

↓貸借対照表は下記のようになります。

(流動資産)預託金  (流動負債)預かり金

一方で、預かり有価証券の場合は証券会社の貸借対照表には計上されません。

顧客が証券会社に預けた有価証券は、証券保管振替機構等の外部機関に保管されることによって分別管理が行われ、どのような観点からも証券会社の貸借対照表上で資産を認識する根拠に乏しいからです。

さて、暗号資産は、現金同様に個別性がなく、暗号資産交換業者が預託者から預かった暗号資産について処分に必要な暗号キー等を保管することになるという性質を有します。

このような状況においては、①暗号資産交換業者は自己の保有する暗号資産と同等に処分することができる状況にあること、②暗号資産交換業者が破産手続きの開始決定を受けたときに、暗号資産交換業者の破産財団に組み込まれた預託者の暗号資産について、その預託者の所有権に基づく取り戻しが認められていないことから、自己が保有する暗号資産との同質性を重視し、現金の預託を受ける場合と同様、暗号資産交換業者が預託者との合意に基づいて暗号資産を預かったときの時点の時価によって、資産として計上するべきと考えられます。

↓この場合の貸借対照表は下記のようになります。

(資産)預託暗号資産勘定  (負債)預かり金

なお、法人税法、消費税法上の取り扱いは下記の通りです。どちらも損益を発生させる取引ではなく、また、消費税の課税対象取引ではないため税務上の論点はほぼありません。

3.法人税の取り扱い

暗号資産交換業者が顧客から暗号資産を預かる取引は、法人税法上の損益取引に該当しません。したがって、法人税の課税関係は生じません。

4.消費税の取り扱い

暗号資産交換業者が顧客から暗号資産を預かる取引は、消費税の課税対象外取引に該当します。したがって、消費税の課税関係に影響がありません。