暗号資産交換業者が取引所で売買を仲介した場合の会計処理
暗号資産の取引所を運営している会社が、その自社運営の取引所において行われる暗号資産の売買の仲介手数料をビットコインなどの暗号資産で入手した場合、会計及び税務上どのように処理すべきでしょうか?
今回のコラムでは、暗号資産取引所が獲得した売買手数料の会計上、及び税務上の処理について見ていきたいと思います。
1.暗号資産の手数料について
暗号資産を利用するメリットとして、海外送金を行う場合の送金コストが、円やドルなどの法定通貨の送金コストより、(送金金額や送金先を問わず)格段に安く済むことが従来より挙げられていました。
しかし、例えばビットコインの場合、送金手数料は BTC 建てで設定されています。したがってビットコインの価格が上昇し、20倍にもなってしまったとすると通常の法定通貨の送金手数料と変わらない、あるいは金額によっては高くなってしまうといった事態が考えられます。
海外送金であればまだしも、国内送金ですと逆に割高になってしまうケースも多いと思われます。
一例として、ビットコインの送金手数料について見てみましょう。
ビットコインの送金手数料は、本来ユーザー側が決めることになっています。
そしてマイナーが送金要請に対して、どの要請を引き受けるか自由に選ぶことができるため、手数料の高い要請について、マイナーは基本的には優先的に承認処理を行っていくことになります。
このため一時期、取引量が増大した時には、送金待ちの件数が多く生じていたこともありました。
国内の大手取引所の多くは、取引所の設定した固定手数料で取引が行われていますが、取引の混雑状況等によっては、手数料を上げ下げして対応することもあります。
とはいえ現行の暗号資産はどちらかと言うと投資・投機目的で利用されることが多く、送金目的で利用されることは少ないです。(どちらかというと、マネーロンダリングやテロ資金の送金など、ネガティブな文脈で語られることも多いです。)
価格の高騰による手数料問題以上に、まだまだ暗号資産価格自体の変動が大きく、連動する送金手数料も一定ではありません。
とはいえ、デジタル人民元など、法定通貨をブロックチェーン化する動きもありますし、今後、ビットコインなどの暗号資産が支払手段など投資以外での利用が多くなれば、価格も安定し、同時に手数料も平準化・適正化されていくと思われます。
ビットコイン取引所が、取引手数料をビットコイン建てで請求する場合には、ビットコインを円換算した価格をもって損益計算書に純額で計上することになります。
なお、円貨換算する際に適用するレートは、原則として取引所における取引時のレートにより換算することになります。
また、ビットコイン取引所が行う仲介業務の取引手数料収入に係る消費税は、課税売上として処理されます。
2.会計上の取扱い
暗号資産交換業者が行う暗号資産の売却取引に係る表示に関しては、売買取引に伴って得られる差益を純額で表示するのが原則です(暗号資産会計基準16項)。
しかし今回問題になっているのは暗号資産の売却取引ではなく、仲介業務という役務提供により取引手数料を得る取引ですから、純額表示という考え方はありません。
取引手数料相当額を収入として、損益計算書の売上高に計上することになります。
具体的な仕訳例は次のとおりです。
・仲介時レート:1BTC = 2,000,000円
・仲介手数料:1 BTC ×0.01%=0.0001BTC
【仲介時の仕訳】
(借)暗号資産勘定 200 (貸) 仲介手数料収入200
0,0001BTC ×2,000,000円=200円
なお、暗号資産建ての取引手数料の円貨換算方法については、原則として「取引所」における取引時のレートにより換算することになります。
これは、外貨取引の換算と同様の考え方で、取引が実現した時点のレートこそが取引金額を正確に反映できるという発想によるものです。
3.法人税の取扱い
会計上の取扱いと同様に処理することになります。
したがいまして、取引所が取引手数料を暗号資産建てで請求する場合には、暗号資産を円換算した価格をもって、取引手数料相当額を収益とします。
なお、円貨換算する際に適用するレートについても、会計上の処理と同様取引所における取引時のレートにより換算することになります。
4.消費税の取扱い
消費税法において、消費税の課税対象とは原則として、以下の4つの要件について全てを満たすものとされています。
⑴ 国内における取引であること
⑵ 事業者が事業として行うものであること
⑶ 対価を得て行われるものであること
⑷ 資産の譲渡及び貸付ならびに役務の提供であること
暗号資産取引所が行う仲介業務の対価収入は、上記の4つの要件を全て満たすため、課税売上として処理されます。
課税売上ですので、実務上仕訳を切る際には、対価収入のうちの消費税部分を仮受消費税として別に区分し、損益計算書上計上される収益額は、全体の対価の金額から消費税分を除いた税抜金額となります。(税抜処理)