上場準備企業のコンプライアンス体制の整備について
コンプライアンスとは「法令遵守」及び「企業倫理」のことを指します。
今回は、前回のリスク管理体制ともつながる内容ですが、コンプライアンスをテーマに解説をしていきたいと思います。
1.法令遵守の重要性
企業として法令遵守は当然のことですが、特に上場企業は社会の公器として、また、様々なステークホルダーへの影響が大きいことから、より一層の厳守と法令や社会倫理に則った経営が求められます。
たとえば反社勢力との取引に関しては、昨今ますます厳しくなっており、上場を目指す会社であればこうした反社勢力との取引が決して行われないような社内体制の整備が必須と考えられます。
株式上場審査では、『法令違反を犯してないこと』が必須であり、過去、法令違反がないか、またはやむを得ず法令違反があった場合でもその改善状況について確認されます。
また、コンプライアンスの観点から、コンプライアンス遵守のための体制整備状況、運用状況についても慎重に確認されます。
こうした社内管理体制の構築には思いのほか時間がかかりますので、早急な体制作りが必要となります。
違反事例に関しては、発生の経緯、内容、改善状況を踏まえて慎重に判断されます。(必ずしも違反があるからといって即上場不可となる訳ではありません。)
重大な違反や改善不備の場合は、上場可否判断、上場申請時期等にも影響がありますので、上場準備着手の段階で主幹事証券や監査法人に説明を行う必要があります。
2.コンプライアンスをめぐる昨今の傾向
最近のコンプライアンスの理解のトレンドとしては、法令順守のみならず、より広範囲にわたる倫理的な判断を含む概念になってきているように思われます。
そもそも上場企業に限らず法律を守ることは当然のことでもあり、わざわざ『コンプライアンス』といった形で強調し過ぎるのは逆に企業の姿勢として疑問に思われても不思議ではありません。
むしろコンプライアンスの重点は、むしろ企業経営上のリスクを回避するために守るべき社内管理規程などの整備を図り、それら社内ルールの適切な運用を行うために高い企業倫理に基づいた判断を行うことを、企業経営のあらゆる局面で適用される行動規範としようとすることにあります。
従って、コンプライアンスを重視する経営者が想定すべきなのは、
- 法律・条例などの法規範の遵守(守るべき最低限の水準)
- 社内管理規程などの社内規範(健全な企業として当然あるべき水準)
- 企業倫理などの社会的・倫理的規範(社会の公器として望ましい水準)
となります。
こうしたコンプライアンスが経営上着目され、また合理的であると考えられるようになってきた背景としては、第一に、護送船団方式に代表される行政指導による事前規制から、司法による事後規制への移行、第二に、コンプライアンス意識の高まりによる企業の法令遵守に対する目線の厳格化、第三に、グローバル経済の進展に伴うグローバルスタンダードへの対応といった要因があります。
したがって、コンプライアンスに対する高い感度は、今後ますます企業としては決して避けて通ることはできなくなります。
具体的な対応策としては、
- 会議、社内報などで、コンプライアンスの意義、重要性について、繰り返しアナウンスする
- 定期的な教育・研修などで浸透させる
- 経営理念の中の一項目とし、コンプライアンス意識の徹底化を行う
といったものが考えられます。
上場審査上も、連結子会社も含めて、事業に関係する法規制、監督官庁などによる行政指導の状況は当然に確認されますし、法令遵守の体制として、内部監査、監査役監査などの監査項目に法規制への対処やコンプライアンスに関連する項目が反映されているかどうかについても確認されることになります。
上場準備企業は、自社の事業に関係する法規制について明確に理解しておくとともに、改正などにも適時に対応できる体制作りが求められます。
また、新規に事業を始める場合は、事業面の採算や将来性といった視点だけでなく、関連する法規制とそのリスクについて把握し、それらの対策に割かれるリソースも含めた上で事業の可能性について検討する必要があります。
最近の審査では、アフィリエイトプログラムで使用されるバナー広告の不当表示に代表される景品表示法の対応、CtoCプラットフォーム型ビジネスにおける資金決済法などが話題に挙がることが多いようです。
こうしたビジネスを営む皆様については特に、証券会社や監査法人とも相談の上、早めに規制当局への問い合わせや相談を行うことが望ましいと思われます。
3.コンプライアンス体制として必要な要素
ここまで述べたように、企業がコンプライアンスの重要性を認識し、事前に法令違反を生じさせない体制を整備しておくことが非常に重要ですが、具体的にはどのようなものが必要か下記に列挙してみました。
⑴コンプライアンス規程
⑵コンプライアンス研修
⑶法改正の状況確認のためのキャッチアップ手段
⑷許認可等の申請、更新作業を行う担当者、そのマニュアル
⑸顧問弁護士との連携窓口となれる十分な知識を有する担当者
⑹コンプライアンスに関する協議・モニタリングを行う機関(リスクコンプライアンス委員会など)
⑺監査役監査、内部監査によるコンプライアンス体制
こうした多面的な方向からの対応策により、コンプライアンスを遵守できる体制を社内に構築していくことが大切です。