研究開発費の会計処理について
企業活動が近年ますますグローバルになり、またその競争も激化している昨今、他社に競争で打ち勝つための「研究開発」の比重がさらに大きなものとなっています。
会計上も研究開発費は、どこまでが資産計上でどこまでが期間費用となるのか判然としない部分が非常に大きいものです。
今回は、研究開発の会計処理について解説していきたいと思います。
1.研究開発費の定義
研究開発費等に係る会計基準による定義では「研究」とは、「新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探究」となっています。
一方で、「開発」とは、「新しい製品・サービス・生産方法(製品等)についての計画若しくは設計又は既存の製品等を著しく改良するための計画若しくは設計として、研究の成果その他の知識を具体化すること」となっております。
研究は最終アウトプットが見えないもの、開発は最終アウトプットがある程度見えた状態で行うものという違いがあります。
また、研究開発費と密接に関係するソフトウエアの定義についてですが、「ソフトウェアとは、コンピュータを機能させるように指令を組み合わせて表現したプログラム等をいう」となっており、それぞれの定義がこれから解説する研究開発費の処理と密接にかかわっています。
2.研究・開発の範囲について
では具体的に研究・開発の典型例としては何が挙げられるでしょうか。
「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」には次のような具体例が列挙されています。
① 従来にはない製品、サービスに関する発想を導き出すための調査・探究
② 新しい知識の調査・探究の結果を受け、製品化、業務化等を行うための活動
③ 従来の製品に比較して著しい違いを作り出す製造方法の具体化
④ 従来と異なる原材料の使用方法又は部品の製造方法の具体化
⑤ 既存の製品、部品に係る従来と異なる使用方法の具体化
⑥ 工具、治具、金型等について、従来と異なる使用方法の具体化
⑦ 新製品の試作品の設計・製作及び実験
⑧ 商業生産化するために行うパイロットプラントの設計、建設等の計画
⑨ 取得した特許を基にして販売可能な製品を製造するための技術的活動
具体例から見えてくることは、研究や開発の定義に該当するには何らかの「新しい」製品や技術への投資を意識したものであることが重要という点です。
「新しい」というのは、既存技術の延長線上の置ける改良であるとか、日々の業務の中での改善といったものではなく、これまで企業内では不可能であったり困難であったりするようなアウトプットを出すための意図を持った活動であることが必要ということです。
この定義についてのイメージは、研究開発費の原則費用処理という会計処理と密接にかかわっているのでぜひ頭に入れておいてください。
3.研究開発費の会計処理及び表示等
さて、研究開発費の会計処理についての解説です。
前章でも述べたように、研究開発費は全て発生時に費用として処理しなければなりません。
したがって、例えば、外部に研究開発を委託した場合は、研究開発の内容について自社で検収を行い、利用可能になった判断できた時点で費用として処理すべきということになります。
実務上は契約金等は研究開発を依頼した時点以降、研究開発完了以前のどこかで発生するでしょうから、契約金等は前渡金として処理しなければなりません。
研究開発費は前章でも述べたように、新製品の計画・設計、既存製品の著しい改良等のために発生する費用です。
したがって、既存製品のようにコストを計算したうえで販売価格と紐づいて発生するようなものではないため、一般的には原価性がないと考えられます。
したがって、例外的な場合を除き一般管理費として計上することになります。
ただし少しややこしいのですが、製造現場において研究開発活動が行われ、かつ、この研究開発に要した費用を一括して製造現場で発生する原価に含めて計上しているような場合があります。
こうしたケースにおいては、この研究開発部分を切り出して販管費とするのも大変ですから、実務慣行を重視して研究開発費を当期製造費用に算入することも会計上認められています。
なお実務上、製造業などでこのような処理はかなり広範に行われており、会計上では例外処理扱いでもむしろ企業経理においては一般的な処理であることを付記しておきます。
この場合、研究開発費の範囲などが明確でないと原価計算が不正確になってしまいますから、当期製造費用に算入するに当たっては、研究開発費としてすべきかどうかや、研究開発として適切な範囲の定義を明確にして、同種の費用が販管費になったり原価になったりしないよう注意する必要があります。
また当然ですが、製造現場で発生していても製造原価に含めることが不合理であると認められる研究開発費(製造現場のオペレーションに関する研究開発など)については、当期製造費用に算入することはできません。
特に、研究開発費を当期製造費用として処理し、当該製造費用の大部分が期末仕掛品等として資産計上されることとなる場合には、それ以前の処理方法である「繰延資産等として資産計上する処理」と結果的に変わらないこととなるため、妥当な会計処理とは認められないことに留意する必要があります。
具体的には、ソフトウェア制作費のうち研究開発に係る部分について、当期製造費用として処理し、結果的にその大部分がソフトウエア仮勘定などで資産計上されることとなる場合が該当します。
つまり、研究開発費を製造原価にする前提として、大部分がその発生した期中に費用処理されるような事業形態であることが必要となりますので、こうした会計処理を行う場合は注意が必要です。
なお研究開発費の開示に当たっては、当期に発生した研究開発費として、一般管理費及び当期製造費用に計上した額を総額で注記します。
その場合の研究開発費は、当期製造費用として処理したものを除き、一般管理費として当該科目名を付して記載することになります。