税務上の試験研究費について

『研究開発費』については会計上も税務上も様々な論点が存在します。

会計上は、研究開発費を資産計上するのか費用処理するのかという点が大きな論点になりますが、税務上はこれに加えて税制優遇措置についての論点が存在します。

研究開発は長期にわたる一方で、短期的には大きなキャッシュ・アウトとPL上のマイナスインパクトがあるため、短期的な視野による企業経営を行う場合、リストラクチャリング等でまっさきに削られやすい項目となります。

一方で、社会全体で見れば適切な水準の研究開発投資が民間で行われないと、長期の経済成長や国民経済の発展に悪影響が及ぶと考えられます。

このように必要な長期投資が行われなくならないよう様々な税制優遇が研究開発には施されていますので、コラムの後半ではこの辺りについても補足をしていこうと思います。

ということで今回のコラムでは、研究開発費についての税務上の処理を中心に解説をしていきたいと思います。

1.税務上の試験研究費

国税庁のタックスアンサーNo5442によれば、税務上の試験研究費の対象となる額については、次で解説する金額が該当することになります。

注)該当金額の費用に充てるため他の者から支払を受ける金額がある場合には、その金額を控除した金額となります。すなわち、試験研究費支出の過程において、対価として受領した金銭があればそれを除いた額が試験研究費となります。

具体的には、以下に掲げる費用の額のうち売上原価を除いた金額で、各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されるものが試験研究費となります。

なお、令和3年度の税制改正において、研究開発税制における試験研究費の額について行われた見直しとして、上記に該当する費用のうち、棚卸資産もしくは固定資産(事業の用に供する時において試験研究の用に供する固定資産を除く)の取得に要した金額とされるべき費用の額または繰延資産(試験研究のために支出した費用に係る繰延資産を除きます。)となる費用の額も追加されました。

これは、研究開発費の科目をもって経理を行っていない金額であっても、法人の財務諸表の注記において研究開発費の総額に含まれていることが明らかなものは試験研究費に含める趣旨となります。

【製品製造と技術改良】

製品の製造または技術の改良、考案もしくは発明に係る試験研究(新たな知見を得るためまたは利用可能な知見の新たな応用を考案するために行うものに限る。)のために要する費用(研究開発費として損金経理をした金額のうち、固定資産または繰延資産の償却費、除却による損失および譲渡による損失の額を除きます。)

イ その試験研究を行うために要する原材料費、人件費(専門的知識をもってその試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限ります。)および経費

ロ 他の者に委託をして試験研究を行う法人(人格のない社団等を含みます。)のその試験研究のためにその委託を受けた者に対して支払う費用

ハ 技術研究組合法第9条第1項の規定により賦課される費用

【新サービス研究】

対価を得て提供する新たな役務の開発に係る試験研究(以下「新サービス研究」といいます。)として次に掲げるもののすべてが行われる場合のその試験研究のために要する一定の費用(注)が試験研究費に該当します。

イ 大量の情報を収集する機能を有し、その機能の全部、主要な部分が自動化されている機器または技術を用いて行われる情報の収集

ロ その収集により蓄積された情報について、一定の法則を発見するために、情報解析専門家(※)により専ら情報の解析を行う機能を有するソフトウェア(これに準ずるソフトウェアを含みます。)を用いて行われる分析

なお、情報解析専門家とは、情報の解析に必要な確率論および統計学に関する知識ならびに情報処理に関して必要な知識を有すると認められる者をいいます。

ハ その分析により発見された法則を利用した新サービスの設計

ニ その発見された法則が予測と結果の一致度が高い等妥当であると認められるものであることおよびその発見された法則を利用した新サービスがその目的に照らして適当であると認められるものであることの確認

(注)の「一定の費用」について

「一定の費用」は次の費用をいいます。

① その試験研究を行うために要する原材料費、人件費(情報解析専門家でその試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限ります。)および経費(外注費にあっては、これらの原材料費および人件費に相当する部分ならびにその試験研究を行うために要する経費に相当する部分(外注費に相当する部分を除きます。)に限ります。)

② 他の者に委託をして試験研究を行うその法人のその試験研究のためにその委託を受けた者に対して支払う費用(①の原材料費、人件費および経費に相当する部分に限ります。)

2.税額控除限度額について

試験研究費の税額控除の制度があります。

しかし、非常に複雑であるため詳細を理解しようとするよりも、全体像を把握することが肝要です。(以下は概要に過ぎず、事業年度ごとで適用の可否が変わるなど非常に複雑ですので、適用可能かどうかや、実際の専門的処理については必ず税理士などの専門家に確認をしてください)

具体的には、税額控除には次の4種類があり、それぞれの特徴は下記の通りとなります。

①試験研究費の総額に係る税額控除
各法人(青色申告法人)において試験研究費が計上される場合に、法人税額の25%、一定のベンチャー企業40%相当額を上限としてその事業年度の法人税の額から試験研究費の額の一定割合を控除することができます。

②特別試験研究に係る税額控除制度
試験研究費の額のうち特別試験研究費がある場合に、一定割合を税額控除として認める制度です。これは①と併用が可能です。

なお、特別試験研究費とは、国の試験研究機関や大学などと共同して行なう試験研究、国の試験研究機関や大学などに委託する試験研究、中小企業者から知的財産権の設定または許諾を受けて行う試験研究、その用途に係る対象者が少数である医薬品に関する試験研究などに係る試験研究費をいいます。


税額控除割合は、国の試験研究機関や大学などとの共同研究およびこれらに対する委託研究は30%、他の者との共同研究およびこれらに対する委託研究で、革新的なものまたは国立研究開発法人などにおける研究開発成果を実用化するための試験研究は25%、それ以外は20%になります。

③中小企業技術基盤強化税制
青色申告書を提出する中小企業者が対象です。①の適用が無い場合に、当該事業年度の法人税の額から試験研究費の額の12%相当額の控除を認めるものです。