セール・アンド・リースバック取引の会計処理について

久々にセール・アンド・リースバック取引の論点について解説をしていきます。

前回までのセール・アンド・リースバック取引の解説では、セール・アンド・リースバック取引のメリットやデメリット、会計上のセール・アンド・リースバック取引の範囲などについて解説をしていきました。

今回からいよいよセール・アンド・リースバック取引の具体的な会計処理の解説に入っていきたいと思います。

1.セール・アンド・リースバック取引の借手(売手)の会計処理

リース適用指針(案)によれば、売手である借手は、セール・アンド・リースバック取引における資産の譲渡が売却に該当するか否かについて判断を行う必要があります。

①資産の譲渡が売却に該当しない場合

資産の譲渡が売却に該当しない場合とは、資産の譲渡とリースバックを一体の取引とみて、金融取引として会計処理を行うようなケースです。

対象となるリース資産が貸借対照表で計上され続ける一方で、現預金などで増加した借方の資産に相当する金額の金融負債が貸方で認識される両建て処理となります。

②資産の譲渡が売却に該当する場合

資産の譲渡が売却に該当する場合は、資産の売却とリースを別個の取引とみなして会計処理も別個に行う場合です。

この場合は、資産の譲渡については収益認識会計基準など他の会計基準等に従って売却の処理を行い、譲渡損益を認識します。(当然、貸借対照表から売却した資産は消滅します。)

また、リースバックの取引は通常のリースの取引と同様です。

したがって、売却資産された資産をリースした側はリースの借手となり、新しい会計基準等案に従った借手の会計処理を行うことになります。

セール・アンド・リースバック取引の会計処理の第一のポイントは、この資産譲渡が売却に該当するか否かの判定にあり、売却に該当するか否かによって全く会計処理が異なるので注意しましょう。

2.資産の譲渡が売却に該当するかどうかの判定方法

次に資産の譲渡が売却に該当するかどうかの判断基準についてみていきます。

リース適用指針(案)では、条文上『資産の譲渡が売却に該当しない』場合が示されています。

具体的には、下記の⑴、⑵のどちらかに該当する場合は『資産の譲渡が売却に該当しない』ため

、資産の譲渡とリースバックを一体の取引とみて、金融取引として会計処理を行います。

⑴資産の譲渡が収益認識会計基準などの他の会計基準等により売却に該当しないと判断される場合

⑵リースバックにより、売手である借手が、資産からもたらされる経済的利益のほとんどすべてを享受することができ、かつ、資産の使用に伴って生じるコストのほとんどすべてを負担することとなる場合(フルペイアウト)

⑴については、具体例で見ていくと分かりやすいです。

例えば、譲渡された資産についての売手(リースの借手)がコール・オプションを有している場合がこれに該当します。

コール・オプションは「一定金額で買う権利」なので、この譲渡における売手(リースの借手)はこの資産をいつでも買い戻して自分のものにすることができます。

すなわち、この譲渡における売手(リースの借手)は、実質的には所有権を手放しておらず売却に該当しないと判断するのが合理的と思われます。

次に、⑵です。

⑵のようなフルペイアウトの要件を充足する場合、リース資産の買手である貸手側から考えると理解しやすいです。

リース資産の買い手である貸手側は、資産の購入から得られる利益は実質得られず、その利益はほぼ借手側に帰属します。

そうであれば、所有権自体は貸手側にあったとしても実質的に資産を支配するのは借手側で、資産の売却が行われなかったと考えるのが合理的です。

3.資産の譲渡対価が明らかに時価ではない場合等の取扱い

セール・アンド・リースバック取引はあくまで相対取引で行われるので、譲渡対価やリース料が市場価格と大きく乖離することがあり得ます。

こうした場合でも相対取引での価格を信頼してよいものでしょうか?

場合によっては、取引相手と結託することで意図的に自社に有利な会計処理を行う事ができるのではないかと思ってしまいますね。

リース適用指針(案)では、資産の譲渡が売却に該当する場合に、⑴資産の譲渡対価が明らかに時価ではないとき、または⑵借手のリース料が明らかに市場のレートでのリース料ではないときの会計処理が以下のように定められています。

⑴資産の譲渡対価が明らかに時価ではないとき
譲渡対価と時価のどちらが上回るかによって①と②のパターンが考えられますが、基本的な考え方は『時価に合わせる』というものになります。

相対価格というのは上でも述べたように恣意性を完全に排除することはできませんので、市場価格や時価と大きく乖離する場合はより客観性のある時価を信頼するという考え方によるものです。

①譲渡対価が時価を下回る場合

譲渡対価が時価を下回る場合には時価を用いて譲渡損益を認識し、譲渡対価と時価の差額を使用権資産の取得価額に含めます。

②譲渡対価が時価を上回る場合

譲渡対価が時価を上回る場合には時価を用いて譲渡損益を認識し、譲渡対価と時価の差額を金融取引として会計処理します。

①の場合は譲渡対価と時価の差額を使用権資産の取得原価に含め、②の場合には譲渡対価と時価の差額を金融取引として処理するという違いがあります。

これは一見難しく見えますが、時価によって譲渡損益を算定したことで生じる譲渡対価と時価の差額について、①であれば貸方側に出るのでその調整は借方の使用権資産の簿価で、②であれば借方側の出るのでその調整はリース債務の簿価で行うというだけです。

この譲渡益の差額は最終的に、①であればリース資産の減価償却で、②であればリース債務の利息費用で償却・償還年数にわたり調整されることになります。

⑵借手のリース料が明らかに市場のレートでのリース料ではないとき

借手のリース料が明らかに市場のレートでのリース料ではないときの会計処理も基本的には⑴と同様で、市場レートに合わせた処理を行います。


①借手のリース料が市場のレートでのリース料を下回る場合

借手のリース料が市場のレートでのリース料を下回る場合、借手のリース料と市場のレートでのリース料との差額について譲渡対価を増額した上で譲渡損益を認識し、同額を使用権資産の取得価額に含めます。

②借手のリース料が市場のレートでのリース料を上回る場合

借手のリース料が市場のレートでのリース料を上回る場合、借手のリース料と市場のレートでのリース料との差額について譲渡対価を減額した上で譲渡損益を認識し、同額を金融取引として会計処理します。

譲渡損益の差額の処理も⑴と同様で、使用権資産とするか、金融取引とするかの違いはあれど基本的な考え方は一緒で、差額を貸借の逆側の資産または負債で調整し、最終的は減価償却または利息費用で差額がなくなります。

なお、⑴⑵のような明らかに時価ではないまた明らかに市場のレートではないかどうかの判定は、資産の時価と市場のレートでのリース料のいずれか容易に算定できる方で行いますので、この点は留意が必要です。