有責組合に関連する会計処理の概要

金融商品会計基準と有責会計基準の相違及び有責組合の投資の評価

■時価概念の相違及び有責組合の投資の評価

一般事業会社と有責組合では時価概念に相違があります。

一般事業会社の有価証券の時価評価対象は、売買目的有価証券とその他有価証券に分類されるものが対象です。特に株式については市場価格のあるものに限定されます。

一方有責組合の投資勘定は、原則として時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券も対象となり、各組合の組合契約で定められている評価基準に従って時価評価を行います。

ただし現行の会計基準では、時価を把握することが極めて困難であると認められる有価証券については、評価益を計上せず取得原価評価します。また保守主義の観点から、時価>取得価額の場合で、会計方針として取得価額で計上する旨を定めた場合は評価益の計上をしないことも可能です。

なお、時価を把握することが極めて困難であると認められる有価証券の時価評価の方法の例示として、「投資事業有限責任組合における有価証券の評価基準モデル」が「投資事業組合の運営方法に関する研究会報告書」の資料として当時の通商産業省から公表されており、実務ではこれを参考にして評価基準を設定しているケースが見受けられます。

■投資証券の評価差額の会計処理の相違

金融商品会計基準と有責会計基準とでは、市場価格のある有価証券の時価評価差額及び、外貨建有価証券の為替換算差額の会計処理方法が異なります。

金融商品会計基準 有責会計基準
投資証券

評価差額の会計処理

B/S純資産の部の「その他有価証券評価差額金」に計上 P/Lの「未実現損益調整額」に計上

 

組合員側の取込の会計処理

組合の財産は組合員(出資者)の「共有」のものです。特段の定めがない場合、組合の権利義務は各組合員の出資割合に応じて各組合員に帰属します。これは民法組合の「共有・合有」に基づく考え方です。このため、会計上も特段の定めがない場合、組合の持分・損益については、各組合員が出資割合に応じて取り込む会計処理をすることとなります。

組合員が組合の持分・損益を取り込む方法には、以下の3つの方法があります。

・純額方式(Net-Net法)
貸借対照表・損益計算書とも持分相当額を純額で計上する方法

・損益帰属方式(Gross-Net法)
貸借対照表は純額で計上し損益計算書は損益項目の持分相当額を計上する方法

・完全認識方式(Gross-Gross法)
貸借対照表・損益計算書とも各項目の持分相当額を計上する方法

上記3つの方法は全て金融商品会計基準にて採用が認められています。金融商品会計の実務指針では「契約内容の実態及び経営者の意図を考慮して、経済実態を適切に反映する会計処理及び表示を選択する」(金融商品会計実務指針308項)とされているため、当該組合への出資の実態・意図等を考慮して採用する方法を決定します。

また、上記3つの方法は全て税務上も採用が認められていますが、各方法により組合で発生した加減算項目や所得税額控除を組合員の税金計算に反映することが認められる範囲が異なるため(法基通14-1-2)、この点について注意が必要です。

有責組合を連結する際の論点

■有責組合連結の概要

有責組合を連結の範囲に含めるか否かの判断は、「投資事業組合に対する支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の取扱い」(以下、「実務対応報告20号」)に従って検討することになります。

つまり、実務対応報告20号によると連結の範囲は一般事業会社のように議決権基準ではなく、業務執行の権限により支配しているか否かを判断することとされています。

そのため、多くの有責組合は無限責任組合員(業務執行者)であるベンチャーキャピタルの子会社に該当するものとして取り扱われることとなり、ベンチャーキャピタル各社の決算書に大きな影響を与えることになりました。

一方、以下の場合には業務執行の権限を支配している者が、出資者の緊密な者に該当する場合が多いと考えられ、ファンドは出資者の子会社に該当するものとして取り扱われるという点に注意が必要です。

・出資者がファンド出資総額の半分を超える額を拠出する場合

・出資者がファンドの利益又は損失の半分を超える額を享受又は負担する場合

■有責組合連結の影響

連結貸借対照表については、上記で記載したとおり連結により組合の外部出資者持分も含めて合算されるため、連結貸借対照表上の総資産が従来に比べて大きくなります。つまり、外部出資者持分の割合が大きいほど貸借対照表に与える金額の影響も大きくなります。

連結損益計算書については、組合に計上されている損益項目が外部出資者持分も含めて合算されるため、各損益項目(以下で述べる管理報酬及び成功報酬を除いて)が従来に比べて多く計上されることになります。そのため、組合が利益を計上している場合はその分の利益が当期純利益までの段階利益に合算されますし、組合が損失を計上している場合はその分の損失が合算されるため、外部出資者持分の割合が大きいほど、連結損益計算書の各段階損益に与える金額の影響も大きくなります。

しかし、連結損益計算書の末尾にて、外部出資者持分に係るものは「非支配株主に帰属する当期純利益」として表示され、外部出資者持分に係るものを除いた当期純利益は「親会社株主に帰属する当期純利益」として表示されるため、実務対応報告20号適用前の従来の方式でも組合連結後でも最終的な「親会社株主に帰属する当期純利益」の金額は一致することになります。

また、組合を運営するベンチャーキャピタルにとって、管理報酬及び成功報酬は業績を判断する上で重要な指標ですが、組合を子会社に含めることにより、ベンチャーキャピタルが組合から受け取る管理報酬、成功報酬は親子会社間取引に該当するため、連結決算上相殺されます。

このように組合連結による連結決算への影響は大きいため、上場しているベンチャーキャピタルのなかには、決算発表時には組合連結による通常の決算書以外に、連結する以前の方式により作成した決算書を決算短信又は決算説明資料に載せることで、従来からの決算との比較可能性を保つようにしている会社もあります。