暗号資産の仕訳において使用される勘定科目について②
暗号資産に係る取引が増加するとともに、その経理処理をどのように行うべきかについて経理担当者が頭を悩ませるケースが増えていると聞きます。
中でも勘定科目については、過去に例のない取引であることから何を使用すればよいのか迷う方も多いのではないでしょうか。
今回も、前回に引き続き、一般社団法人日本暗号資産取引業協会の発行する『暗号資産取引業における主要な経理処理例示』に挙げられている各勘定科目について具体的に解説をしていきたいと思います。
※なお、前回の記事では会計処理の前提条件等についても解説しておりますので、ぜひ本稿を見る前にご一読ください。
なお、暗号資産の経理処理に関する過去の記事は下記となります。
流動資産に関する勘定科目
前回に引き続き、流動資産に関する勘定科目について解説します。
【利用者暗号資産】
利用者暗号資産は、前回解説した自己保有暗号資産と同様に、保管暗号資産と預け暗号資産に分類されます。
それぞれの解説は下記の通りです。
⑴保管暗号資産
暗号資産交換業者に関する内閣府令第 27 条第 1 項第 1 号の規定に基づき、自社で、利用者の暗号資産として自己の暗号資産と区別して管理するものをいいます。
暗号資産交換業者が利用者の暗号資産を管理する場合において、暗号資産交換業者は、利用者の暗号資産と自己の暗号資産とを明確に区分し、かつ、当該利用者の暗号資産についてどの利用者の暗号資産であるかが直ちに判別できる状態(利用者の暗号資産の各利用者ごとの数量が自己の帳簿により直ちに判別できる状態)を維持しなければなりません。
上記のようなケースにおける、自身が保管する利用者保有の暗号資産に付する勘定科目となります。
自己保有暗号資産の場合と同様、毎月末及び期末に活発な市場が存在する場合は、時価を付す必要があります。
⑵預け暗号資産
府令第 27 条第 1 項第 2 号の規定に基づき、第三者をして、利用者の暗号資産として自己の暗号資産と区別させ、かつ、当該利用者の暗号資産についてどの利用者の暗号資産であるかが直ちに判別できる状態で管理させるものをいいます。
これは、暗号資産交換業者が第三者をして管理させる暗号資産のことであり、その第三者が、利用者の暗号資産とそれ以外の暗号資産とを明確に区分させ、かつ、当該利用者の暗号資産についてどの利用者の暗号資産であるかが直ちに判別できる状態で管理させる方法を採っているものをいいます。
暗号資産交換業者が顧客から暗号資産を預かった場合において、自社で管理を行わず他社に管理業務を外注する場合に使用される勘定科目となります。
これも、保管暗号資産の場合等と同様、毎月末及び期末に活発な市場が存在する場合は、時価を付す必要があります。
【デリバティブ取引】
自己の計算により契約したデリバティブ取引について、公正価値により評価した正味の債権をいいます。
毎月末及び期末には、時価を付すことは他と同じです。(ただし、ヘッジ会計を適用するデリバティブ取引は、ここには含めず、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って経理処理することになります。)
【約定見返勘定 】
「自己保有暗号資産」に属する暗号資産の売却に係る約定代金相当額を、取引の合意が成立した時点から受渡日までの間に限り経理処理をする当該「自己保有暗号資産」の見合勘定です。
合意成立により自己保有暗号資産の資産性が喪失する反面、対価たる資産は受渡日まで会社に帰属することは無いためこのような会計処理となります。
なお、これは一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に定める「未収入金」又は「未収収益」とは区分して表示します。
【立替金】
立替金には下記の2種類があります。
⑴利用者への立替金
買付代金の立替え及び売却代金の先払い等の利用者への一時的な立替金です。
⑵その他の立替金
「利用者への立替金」以外の立替金です。貸付金や前払費用と同様、営業に係るものあるいは 1 年以内に確実に回収、精算が見込まれるもの以外は「長期立替金」等の適当な科目に振替処理する必要があります。
【募集等払込金】
新規暗号資産の販売に関する規則第 2 条第 6 号に定める受託販売業務の取扱いに関して発行会社等に支払う払込金をいいます。
なお、この受託販売業務は、暗号資産交換業者がが発⾏者の依頼に基づき新規暗号資産の販売を⾏う業務をいいます。
【差入保証金】
他の暗号資産取引業者等に証拠金(信用取引の保証金を含む。)として差し入れている金銭をいいます。
差し入れ保証金のうち、関係会社に対するものについては、区分経理する必要があります。
他の暗号資産取引業者等への預け金又は預け暗号資産と明確に区分することができない場合は、未決済建玉(たてぎょく)の維持証拠金額を「差入保証金」として表示する必要があります。
なお、建玉とは、信用取引、先物取引、オプション取引などの反対売買が未だなされていない残高をいい、そうした未決済残高が残存している場合の維持証拠金額は、実質的には他の業者に対して差入れた保証金に相当するのでこのような規定が設けられていると考えられます。
また差入保証金についても、営業に係るものあるいは 1 年以内に確実に回収、精算が見込まれるもの以外は「長期差入保証金」等の適当な科目に振替え処理する必要があります。