暗号資産の仕訳において使用される勘定科目について③

今回も、過去の記事に引き続き、一般社団法人日本暗号資産取引業協会の発行する『暗号資産取引業における主要な経理処理例示』に挙げられている各勘定科目について具体的に解説をしていきます。(当シリーズとしては3回目となります)

 

※上記の記事では会計処理の前提条件等についても解説しておりますので、ぜひ本稿を見る前にご一読ください。

 

なお、暗号資産の経理処理に関する過去の記事は下記となります。こちらについても併せてご参照いただければと思います。

 

暗号資産の交換等に関する経理取引について①

暗号資産の交換等に関する経理取引について②

 

1.流動資産に関する勘定科目

引き続き、流動資産に関する勘定科目についてです。

 

【差入保証暗号資産】
他の暗号資産取引業者等に証拠金(信用取引の保証金を含む。)の代用として差し入れている暗号資産に付す勘定科目となります。

 

差入保証金と同様の性質を持ちますが、差し入れるものが金銭等ではなく暗号資産である点が差入保証金との違いとなります。

 

したがって、差し入れ保証暗号資産のうち関係会社に対するものについては区分経理する必要があること、他の暗号資産取引業者等への預け金又は預け暗号資産と明確に区分することができない場合は、未決済建玉の維持証拠金額を「差入保証暗号資産」として表示する必要があること、、営業に係るものあるいは 1 年以内に確実に回収、精算が見込まれるもの以外は「長期差入保証暗号資産」等の適当な科目に振替え処理する必要があること等は差入保証金と同様です。

また、差入保証金と異なり差入保証暗号資産の場合は、暗号資産自体に価値変動があるため、毎月末及び期末に活発な市場が存在する場合には、時価を付すことにより貸借対照表に当該時価変動の影響を反映する必要があります。

 

【貸付暗号資産】

消費貸借契約による暗号資産の貸付に付す勘定科目となります。

 

貸付と差入保証金という形態の違いはありますが、自らの手元にない所有権が自社に帰属する暗号資産という意味では、差入保証暗号資産と非常によく似た性質を持っています。

 

そのため、貸付暗号資産のうち関係会社に対するものについては区分経理する必要があること、営業に係るものあるいは 1 年以内に確実に回収、精算が見込まれるもの以外は「長期貸付暗号資産」等の適当な科目に振替え処理する必要があること、毎月末及び期末に活発な市場が存在する場合には、時価を付すことにより貸借対照表に当該時価変動の影響を反映する必要があること等は差入保証暗号資産と同様です。

 

2.流動負債に関する勘定科目

続いて、流動負債について解説をしていきます。

 

【自己保有暗号資産】

自己保有暗号資産は、流動資産の項目で解説しましたがロング(買い)のポジションとショート(売り)のポジションがあるため、それぞれのポジションごとで資産と負債に分かれます。

 

したがって資産の場合と同様に、流動負債の自己保有暗号資産についても、保管暗号資産と預け暗号資産があります。

それぞれの内容については、下記の通りとなります。

 

⑴保管暗号資産

自己が保有する暗号資産で約定基準により認識したショート・ポジションのうち自社で管理するものに付される勘定科目となります。

 

暗号資産の時価変動を反映するため、毎月末及び期末に活発な市場が存在する場合は、時価を付す必要があります。

 

⑵預け暗号資産

自己が保有する暗号資産で約定基準により認識したショート・ポジションのうち他の暗号資産取引業者等に預託しているものとなります。

暗号資産の時価変動を反映するため、毎月末及び期末に活発な市場が存在する場合は、時価を付す必要があります。

【デリバティブ取引】
自己の計算により契約したデリバティブに付される勘定科目となります。

 

デリバティブとは金融派生商品のことを指します。

具体的には先物取引・先渡取引・オプション取引等が含まれます。

 

デリバティブの会計処理は、大きく分けて2種類あります。

一つ目は原則的な方法で、期末で時価評価が行い、評価差額を当期の損益に計上するものです。

もう一つは、ヘッジ会計の要件を満たすものについて、ヘッジ会計を適用する方法です。この方法による場合、ヘッジ対象の損益が認識されるまで評価差額を繰り延べることができます。

 

暗号資産のデリバティブ取引については、原則的な方法に則り、公正価値により評価した正味の債務を計上します。したがって、毎月末及び期末には、時価を付さなければなりません。

 

第二の方法であるヘッジ会計を適用するデリバティブ取引については、(暗号資産の)デリバティブ取引勘定には含めず、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って経理処理することになります。

 

なお、資産側でもデリバティブ取引勘定が取り上げられております。

これは、自己保有暗号資産の場合と同様、ロングポジションとショートポジションが存在するためです。

 

自己保有暗号資産の場合と同様、ロング(買い)の場合は資産、ショート(売り)の場合は負債となります。

(次回に続きます。)