暗号資産の仕訳において使用される勘定科目について⑤

今回も、過去の記事に引き続き、一般社団法人日本暗号資産取引業協会の発行する『暗号資産取引業における主要な経理処理例示』に挙げられている各勘定科目について具体的に解説をしていきます。(当シリーズとしては5回目となります)

 

※上記の記事では会計処理の前提条件等についても解説しておりますので、ぜひ本稿を見る前にご一読ください。

 

なお、暗号資産の経理処理に関する過去の記事は下記となります。こちらについても併せてご参照いただければと思います。

 

暗号資産の交換等に関する経理取引について①

暗号資産の交換等に関する経理取引について②

 

1.流動負債に関する勘定科目

流動負債に関する勘定科目の解説の続きです。

 

【借入暗号資産】

消費貸借契約による暗号資産の借入を表す勘定科目です。

 

消費貸借契約は、種類、品質及び数量の同じ物を返す代わりに金銭、その他の物を受け取ることができるという

民法587条に規定された契約です。

 

借入暗号資産の場合は、暗号資産を受け取る訳ですから通常は、元本+利息分の暗号資産で返済することが多いと考えられます。

 

勘定科目の性質としては、借入金によく似ています。

 

なお、暗号資産の借入は「暗号資産交換業者に関する内閣府令」第23条1項8号に規定されています。

これによれば、暗号資産交換業者による暗号資産の借入れは法で規定する暗号資産の管理には該当しないため、暗号資産交換業者が借り入れた暗号資産は、分別管理が義務付けられるものではないことが定められています。

 

関係会社に対するものについては、区分経理することが求められます。これは、通常の借入と同様、関係会社からの借入は金融機関等から行われる通常の借入とは異なる性格を持つためと考えられます。

 

また、営業に係るものあるいは 1 年以内に返済期限を迎えるもの以外は「長期借入暗号資産」等の適当な科目に振替え処理する必要があります。

会計上、営業債権・営業債務は正常営業循環基準により流動資産に、それ以外の債権・債務は1年基準により、それぞれ流動資産又は固定資産に分類しますが、それらを踏襲した処理となります。

 

さらに、暗号資産自体に時価変動があるので、毎月末及び期末に活発な市場が存在する場合は、時価を付すことが必要となります。

 

2.損益計算書項目の解説について(前段)

長く続いた貸借対照表項目の勘定科目の説明も、上記で一通り終了しました。

続いて損益計算書の勘定科目についての解説をしてきますが、具体的な勘定科目の説明に入る前に、理解に必要と思われる事項を解説していきます。

 

⑴計上時期について、特段の定めがないものについては、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従い会計処理を行います。

 

一般に公正妥当と認められる企業会計基準の定義は非常に難しいのですが、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準とは、実体的にその基準が存在するわけではないものの公正処理基準と判断される会計処理です。

 

具体的には、会社法、税法、金融商品取引法等の各種の法律、各会計基準などの素材を整理統合した上で、広く一般に認められる会計慣行を含めた一般的かつ妥当な会計処理ということになると思います。

 

収益、費用の認識においては『いつ』の時点で認識すべきかは大きなトピックとなりますが、全てのあり得る処理についてこれを明確に定めることは実務上現実的ではないため、最終的な判断は『会計の常識』ともいうべき一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に委ねることが明記されています。

 

⑵暗号資産建で取引した場合の計上額は、暗号資産を受領又は払出した時の時価により算定します。

暗号資産は価値の変動がありますから、暗号資産建ての場合、換算レートの変動の影響を受けます。

暗号資産建ての取引の場合、そのままでは暗号資産建ての取引と円建ての取引が混在して存在するため、円貨に換算する必要があります。

 

円貨に換算する際に参考になるのが外貨建ての取引です。

外貨建取引は原則として当該取引発生時の為替相場による円換算額をもって記録しますので、暗号資産建て取引の場合もこれと同様に考え、取引時レートによる換算を行う事で、取引の実態を会計数値に反映させることができるようになります。

 

⑶取引発生日から受渡日までの間に月末が到来する場合は、月末の時価で未収収益又は未払費用といった経過勘定を計上すること。

 

「経過勘定」とは、一定の契約下で、あるサービスの提供を継続的に受ける場合に、あるいはサービスの提供を行う場合に、正しい損益計算を実現するために使われる勘定項目です。

 

時間の経過によって発生する費用や収益の中には、現金が出入りするタイミングと損益計算上の認識時期がずれることで、損益の計算が合わなくなってしまうケースがあるため発生主義の観点から、これらのズレをいったん貸借対照表に計上することで、期間損益を合わせていくことになります。

 

また、それらの経過勘定を時価で計上することについては、⑵と同様の理由です。

 

外貨建取引等会計処理基準では『外貨建金銭債権債務については、決算時の為替相場による円換算額を付する。』とあり、為替変動の影響も含めて貸借対照表に正確に反映するための会計処理となります。