暗号資産の仕訳において使用される勘定科目について⑥

今回も、過去の記事に引き続き、一般社団法人日本暗号資産取引業協会の発行する『暗号資産取引業における主要な経理処理例示』に挙げられている各勘定科目について具体的に解説をしていきます。(当シリーズとしては6回目となります)

 

※上記の記事では会計処理の前提条件等についても解説しておりますので、ぜひ本稿を見る前にご一読ください。

 

なお、暗号資産の経理処理に関する過去の記事は下記となります。こちらについても併せてご参照いただければと思います。

 

暗号資産の交換等に関する経理取引について①

暗号資産の交換等に関する経理取引について②

 

1.損益計算書に関する基本的事項

詳細な勘定科目について見ていく前に損益計算書項目について、前提となる知識の解説をしたいと思います。

 

【損益計算書上の分類について】

暗号資産の交換に伴って発生する収益の分類について、どのように考えたらよいでしょうか?

 

結論から言うと、売買目的又は資金決済目的で保有する暗号資産の交換から得られた収益は営業外収益/費用となりますが、暗号資産交換業を業とする場合には売上高となります。

不動産業などと同様、事業目的に依存する点は注意が必要です。

 

【収益認識時点】

次に収益認識時点について見ていきます。

 

一般的に我が国の会計基準において、売却損益の認識時点に関する具体的な判断基準としては、売買の合意が行われた時に売却損益の認識を行う約定日基準と、引渡時に売却損益の認識を行う受渡日基準の 2 つの方法があります。

暗号資産取引は引き渡しまでに時間がかかるケースもあり、どちらで収益認識を行うか議論もあったようですが、通常、売手は売買の合意が成立した時点で売却した仮想通貨の価格変動リスク等に実質的に晒されておらず、売却損益は確定していると考えられますから、売買の合意が行われたときに売却損益の認識を行う約定日基準を採用しています。

 

2.営業収益に関する勘定科目

まずは、営業収益に関する勘定科目の解説をしたいと思います。

 

【受入手数料】

受入手数料の中項目として、⑴委託手数料、⑵受託販売手数料、⑶その他の受入手数料の3種類の勘定科目があります。

それぞれの内容は下記の通りです。

 

⑴委託手数料

委託手数料、媒介手数料等の暗号資産の売買又はデリバティブ取引等の媒介、取次ぎ又は代理を行ったことにより利用者又は他の暗号資産取引業者等から受け入れる手数料を表す勘定科目です。

銀行や証券会社の手数料をイメージすると分かりやすいと思います。

 

なお、媒介、取次、代理について補足をしておきます。これらは民法上の概念であると同時に、金融商品取引法上も頻出の概念です。

 

いわゆる通常の有価証券等の「売買」は、自己の計算で自己の名前で行う取引で「自己取引」となりますが、売買の媒介、取次ぎ、代理は、他人の計算又は他人の名前で行う種類の取引となります。

それぞれ下記のような内容となります。

 

媒介:他人の計算で、他人の名を取引相手に示して行う取引です。、媒介者は、売買の両方の当事者に取引を成立させるために行動しますが、金融商品取引法の媒介の場合は、当事者の一方のみのためにすることが原則となります。

売買の条件を決めるのはあくまで売買の当事者であり、媒介者は取引を設立させることによる手数料収入を目的とします。

 

取次:他人の計算で、自己の名を取引相手に示して、取引を成立させようとする行為を意味します。

他人の計算ですが、暗号資産交換業者自身の名前しか取引相手に示されず、実際の当事者は取引相手にはわかりません。

利用者からの暗号資産の売買注文を受けた暗号資産交換業者が、取引所などを通じ市場に発注することは取次ぎの典型的な形態となります。

 

代理:他人の計算で他人の名を取引相手に示して取引を成立させる行為です。

媒介と同じように見えますが、媒介者は単に当事者をつなぐだけで取引条件を決定する権限がありませんが、代理人は取引条件を決定する権限がある点が違います。

 

委託手数料の収益認識時点は、両者間の契約について合意が成立した時点、すなわち約定日となります。

 

⑵受託販売手数料

暗号資産の受託販売を行ったことにより発行会社等から受け入れる手数料を表す勘定科目です。

 

受託販売の民法上の定義は、他人から委託を受け、委託者の計算で、自己の名で物品を販売することです。

暗号資産取引の場合、暗号資産交換業者は発行会社から販売を受託し、暗号資産交換業者自身が取引相手となること無く市場や別の取引所で取次を行います。

 

⑶その他の受入手数料
アカウント作成手数料、アカウント維持手数料、入出金手数料、暗号資産の受払手数料、暗号資産決済サービス等の利用手数料、利用者の未決済建玉の日次残高に対する手数料などが該当します。

「委託手数料」又は「受託販売手数料」以外の営業に関する受入手数料を表す勘定科目です。

また、手数料の金額面、または質的な面で重要性があれば、さらに内容を細分化して表示する必要があります。