暗号資産の仕訳において使用される勘定科目について⑦
今回も、過去の記事に引き続き、一般社団法人日本暗号資産取引業協会の発行する『暗号資産取引業における主要な経理処理例示』に挙げられている各勘定科目について具体的に解説をしていきます。(当シリーズとしては7回目となります)
※上記の記事では会計処理の前提条件等についても解説しておりますので、ぜひ本稿を見る前にご一読ください。
なお、暗号資産の経理処理に関する過去の記事は下記となります。こちらについても併せてご参照いただければと思います。
1.営業収益に関する勘定科目
引き続き営業収益に関する勘定科目の説明を行っていきます。
【暗号資産売買等損益】
自己の計算により売買した暗号資産に関する取引損益、自己の計算により契約したデリバティブ取引に関する取引損益、貸付暗号資産又は借入暗号資産に係る取引損益、並びこれらのポジション評価損益がこれに該当します。
『自己の計算』がポイントとなります。法律上、暗号資産を預かり運用することは『他人の計算』に当たるため、こうした取引によって得た売買損益は暗号資産売買等損益には該当しません。
暗号資産自体は有価証券ではありませんが、性質としては有価証券売却損益と同様の性質であり、暗号資産と外貨によるトレーディングに関する為替差損益を一括して計上することができる点に特徴があります。
会計処理上も有価証券等の時価のある金融商品との類似点が多くあります。
⑴暗号資産に係る実現損益及びデリバティブ取引等に係る決済損益の収益認識時点については、当該取引の合意が成立した時点。
⑵ 暗号資産(及びデリバティブ取 引 ) に つ い ては、原則として毎月末及び期末に洗替えの方法により評価替えを行い、このとき発生した評価損益を計上する。
⑶その種類・内容により適宜区分して表示する。
⑷毎月末及び期末に損益の合計額を一括して計上することができる。
といった点です。
【受取利息】
貸付暗号資産に対する受取利息を表す勘定科目です。
受取利息は通常、営業外収益となるイメージが強いと思いますが、暗号資産交換業者の場合、利息収益の獲得を目的として保有する場合が一般的で、営業収益となります。
したがって、関係会社への貸付暗号資産(暗号資産取引業及び同付随業務に係るものを除く。) に対する受取利息及び一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従い計上される受取利息(事業会社でいうところの受取利息と同様のケース)については、区分して営業外収益に計上することが必要です。
また事業会社における受取利息と同様、原則として、日割り計算により期間損益を計算する必要があります。
2.営業費用に関する勘定科目
続いて、営業費用に関する勘定科目について解説していきたいと思います。
【支払手数料】
暗号資産の払出に伴い会員が負担した送付手数料(マイニングフィー)やアドレスの有効化のために移転不可となる暗号資産(アドレス有効化費用)等、営業に関する支払手数料を表す勘定科目です。
重要性がある場合には、さらに内容を細分化して表示する必要があります。
なおマイニングとは、新規の取引情報を解析し、ブロックチェーンを作成する作業です。
膨大な計算を必要とするためマイニングを最初に成功させた承認者に対し報酬が支払われますので、払出時に手数料支払が発生します。
アドレス有効化費用についてですが、ビットコイン取引を行う上で、口座ごとに『アドレス』が付与されますが、割当当初のアドレスは無効というステータスになっており、これが初めて受金した時に有効というステータスに変わります。
この有効化のためにブロックチェーン管理者に対して払う手数料がアドレス有効化費用です。
【支払利息】
借入暗号資産に対する支払利息を表す勘定科目です。
受取利息と同様の理由で、営業外費用ではなく営業費用となります。
関係会社からの借入暗号資産(暗号資産取引業及び同付随業務に係るものを除く。) に対する支払利息及び一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従い計上される支払利息については区分して営業外費用に計上することも、受取利息の場合と同様です。
原則として、日割り計算により期間損益を計算する必要があります。
3.営業外収益に関する勘定科目
最後に営業外収益に関する勘定科目の解説をしていきます。
【新暗号資産発生益】
取扱い暗号資産に係るブロックチェーンについてプロトコルの後方互換性・前方互換性のない大規模なアップデートを「ハードフォーク」といい、暗号資産が分岐します。
ハードフォークによるスプリットにより新たな暗号資産が発生するため、新たな暗号資産を認識したことにより自己に帰属することになる暗号資産の発生益が生じます。
新暗号資産発生益は、このハードフォークによる利益を表す勘定科目です。
【暗号資産受贈益】
特定の者が特定の対象者に対し、対象者の保有する暗号資産の残高数量等の一定の基準に従い、暗号資産を配布する行為を「エアードロップ」といいます。
エアードロップはマーケティングなどキャンペーンの一環として、自社で発行した暗号資産等を無償配布するといったケースが多いようです。
暗号資産受贈益は、エアードロップにより新たに暗号資産を受贈したことによる受贈益を表す勘定科目です。
以上となります。
暗号資産独特の勘定科目が多くありますが、どれも内容を理解できれば難しくないものばかりです。
この機会にぜひ暗号資産特有の勘定科目の理解を進めていって下さい。