上場時の社内規定の整備について

株式上場にあたっては、社内規程の整備と最低でも1年以上の有効な運用が審査されます。

社内規程の整備とは、ルールの文章化のことをいいます。例えば、就業規則も社内規程の一部ですが、これが無ければ従業員は好き勝手にしてしまい、社内規律がとれなくなる可能性があります。このように、ルールを定めたら文章化し、社内の誰もがいつでも確認できるように公開する必要があります。

上場会社は社会的公器としてビジネスの継続性及び将来性が求められ、あらゆる社内業務が社内規程により整備・運用されることが求められます。もし、社内規程が整備されておらず法令違反した場合は、ビジネスに支障が生じ投資家に不測の損失が生じる恐れがあります。そのような事態を未然に防ぐためにも社内規程の整備が求められます。

株式上場に向けた社内規程

社内規程の種類と重要性

社内規程は、「組織運営関係規程」「業務管理関係規程」「人事労務関係規程」「経理関係規程」の4つに大別できます。

組織運営関係規程                 取締役会規程、監査役会規程、業務分掌規程、職務権限規程など

業務管理関係規程                 予算管理規程、株式取扱規程、関係会社管理規程など

人事労務関係規程                 就業規則、給与規程、退職金規定など

経理関係規程             経理規程、原価計算規程など

社内規程の作成と留意点

社内規程の作成にあたり留意すべきポイントは以下の4つです。

・各規程間の整合性

複数の規程を作成することにより、各規程間に矛盾が生ずることのないように留意する必要があります。例えば、 各規程間で承認権限者が重複している場合などは、規程の実効性を担保する上で避ける必要があります。

 

・関連法令への準拠性

例えば組織運営関係規程においては、会社法や独占禁止法、その他様々な法令に違反していないかどうかについて留意しなければなりません。

会社が関連法令を網羅的に認識しているかについては、顧問弁護士等のリーガルチェックを受ける方法もあります。

 

・社内業務の網羅性

全ての社内業務は、社内規程によって網羅的に管理する必要があります。また、規程では基本方針を記載するに留め、詳細な手続は別途、作業マニュアルを作成する場合もあります。

 

・実態に即した社内規程の整備

社内規程の作成には多くの時間と労力を費やします。そのため作業効率化の観点から、無駄にコストをかけることのないようスケジュールを立てながら作成することが重要です。

なお、多くの場合は類似企業の社内規程を活用する方法が採用されますが、類似企業だからと無検討に導入してしまうと、効率化は達成されますが会社の実態に即していない規程を利用することとなり返って社内業務に悪影響を及ぼし、改定を余儀なくされるという手間が生じる懸念があります。そのため類似企業の規程を利用する際には、会社の実態に即しており、かつ、運用可能性の観点からも検討することが大切です。

また、以下の手順により社内規程を作成することが望ましいとされております。

1、必要な規程の決定

2、現行規程の見直し

3、不備の洗い出し

4、規程内容及び運用状況を調査

5、規程を改定

内部統制構築の進め方

社内規程との関連性と株式上場準備会社の傾向

内部統制とは、企業として当然にやるべきことを、確実に実施できるようにするための内部的なシステムであり、その遂行すべき方針・手続を定めているという点において社内規程と密接に関連しています。

株式上場準備会社は、小規模かつ比較的簡素な組織構造であるケースが多く、そのような場合には社内規程の文章化がされておらず、内部統制が十分に機能していないことが多いです。そのため、内部統制報告書の作成と会計監査人による内部統制監査に対応可能な水準まで、計画的に内部統制の構築をする必要があります。業務フローを文章化し、各担当者に周知徹底して、日常業務の中で常に遵守する体制を整備・運用します。

内部統制構築の流れ

内部統制の構築にあたり留意すべきことは以下のような点です。

・取締役会の活性化

取締役会は、取締役3名以上で構成され、取締役会設置会社は、監査役を設置する必要があります。そのため、株式上場準備会社においても、人材確保が難しいことから上場審査に耐えうる機関設計が未完成な場合があります。

取締役会は、企業経営における機動的な意思決定を実施する機関であることから、特に、企業に損失が及ぶ事項等について適時適切に報告及び議論がなされているかが重視されます。また、コーポレートガバナンスの観点からは、社外取締役を選任しているかどうか、また、社外取締役が選任されているだけでなく、積極的に取締役会の議論に参加しているかも重要なポイントです。

 

・内部通報制度の実効性の確保

内部通報制度を活用することで企業不祥事が明るみになる事例があります。内部通報から日常的チェック、従業員アンケートを内部ルートとすれば、消費者庁による企業不祥事が明るみとなる場合の内部ルートによる発覚は全体の約8割を占めています。企業不祥事を未然に防止するために、内部のガバナンスが重要であることが分かります。

なお、内部通報制度の実効性を担保するためには、内部通報者への配慮として匿名で内部通報できるようにすることや、内部通報に対して適切な調査を実施しているかといった観点が重視されます。また、セクハラやパワハラ等のみならず、不正が疑われる取引も内部通報の対象となることを、従業員に周知徹底することも大切です。

 

・企業風土の改革

新興企業の経営者おいて多い傾向として売上至上主義が根強く、営業部門を強化することに注力している企業が比較的多く存在します。このような企業は、管理部門をコスト削減の視点で見ている傾向が強いのですが、内部統制の基本的要素の1つであるモニタリング機能を働かせることが必要であるため管理部門の強化も重要となります。

また、ホールディングスのように、傘下に子会社や孫会社を抱えている場合には、当該子会社や孫会社に対してもモニタリング機能が働くような体制の構築が求められます。

なお、内部監査は内部統制制度の一環として、上場審査の際に重要視されます。内部監査の拠所は、社内規程等に準拠した業務遂行がなされているかについて監査することであるため、内部監査を開始するフェーズまでに、社内規程を整備するスケジュール感で作成する必要があります。

 

・業績管理の実効性の確保

上場企業は毎四半期ごとに決算短信を発表し、業績の見通しを開示します。その際の業績の見通しは、各担当部署の実力に即した実現可能な規程になっているかが重要です。

達成が極めて困難な業績予想を会社が作成した場合には、業績達成に対するプレッシャーから、会計不正による粉飾決算のリスクが高くなります。そのため過度に高い目標を設定していないか、また、業績管理責任と財務・会計業務について牽制が機能するレベルで部署・責任者を分けているかもポイントです。