暗号資産を用いた証拠金取引の会計処理について

証拠金取引とは

日経225先物やFX(外国為替証拠金取引)など証拠金を利用して取引を行う商品では、株式投資のように売買の都度、代金を受け渡すのではなく、決済時に売買により生じた損益(差額)のみを受け渡します。

このような取引を「差金決済」といいます。差金決済では、新規建て時に受渡金額は必要ありません。しかし取引により損失が生じた場合でも決済ができるように、一定額の金銭を預けておく必要があります。この預け入れる金銭を「証拠金」と呼び、証拠金を使用した取引のことを「証拠金取引」と呼びます。

暗号資産の取引においても証拠金取引は行われています。暗号資産を用いた証拠金取引は、国内の暗号資産に関連する取引の多くを占めていますが、当該取引に対する会計処理については企業会計基準委員会から公表された「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」(実務対応報告第38号、以下「実務対応38号」といいます)では定められていません。

そのため、「金融商品取引法」(以下「金商法」といいます) で定められた他金融商品を用いた証拠金取引の会計処理に準じて行うと考えられます。

暗号資産を用いた証拠金取引の会計処理の基準

2020年5月1日に施行された金商法の改正により、暗号資産は金商法の金融資産の定義に含まれ、暗号資産に関する指数は金商法の金融指標の定義に含まれました(金商2㉔三の二・2㉕一)。

実務対応38号では、暗号資産を用いた証拠金取引の会計処理について定められていないため、金商法が定義する金融商品に含まれる有価証券、通貨、商品等を用いて行われている証拠金取引の会計処理に準じて行うことが考えられます。

仕訳例

(1)事 象

会社A(以下「A」といいます)は、暗号資産交換業登録をし、かつ金融商品取引業登録をしている暗号資産交換業者B(以下「B」といいます)と、暗号資産を用いた証拠金取引を行うことにしました。

3月1日

Aは、Bにて暗号資産証拠金取引専用口座を開き、当座預金から証拠金2,000,000円を預け入れました。

3月8日

Aは、取引を開始し、証拠金取引において1ビットコイン(以下BTCといいます。)を1,000,000円で買建て(または売建て)しました。

3月31日

Aは、決算日となりました。期末での1BTCの時価は、800,000円となりました。

4月25日

Aは、上記1BTCの建玉を決済するため、1BTC の時価が1,200,000円の時点で反対取引をしました。

 

(2)Aの仕訳例

3月1日 証拠金の預入れの処理

(借) 差入保証金 2,000,000円 (貸)当座預金 2,000,000円

 

3月8日 取引開始時の処理

証拠金取引では、決済時に売買により生じた差額のみ受け渡す差額決済を行うため、取引開始時点での仕訳は不要となります。

 

3月31日 決算時の処理

期末では、未実現の含み損益を実現する処理を行います。

(ア)買建てた場合

(借)先物取引損失 200,000円(貸)先物取引差金 200,000円

取引で生じる債権・債務の貸借対照表価額は時価評価となりますので、取引の差額分を貸借対照表に「先物取引差金」として計上します。

 

(イ)売建てた場合

(借)先物取引差金 200,000円(貸)先物取引収益 200,000円

 

4月25日 決済時の処理

(ア)買建てた場合

(借)差入保証金  200,000円 (貸)先物取引収益400,000円

先物取引差金 200,000円

 

(イ)売建てた場合

(借)先物取引損失 400,000円 (貸)差入保証金  200,000円

先物取引差金 200,000円

決済時に取引に係る債権・債務は消滅するため、貸借対照表に計上した「先物取引差金」を取崩し清算します。

 

(3)Bの仕訳例

3月1日 顧客から証拠金を受け入れた時の処理

(借)現預金       2,000,000円(貸)受入保証金 2,000,000円

(借)顧客分別金信託2,000,000円(貸)現預金    2,000,000円

 

3月8日 取引開始時の処理

証拠金取引では、決済時に売買により生じた差額のみ受け渡す差額決済を行うため、取引開始時点での仕訳は不要となります。

 

3月31日 決算時の処理

期末では、未決済建玉のみなし決済損益を計上し、翌期初振り戻します。この処理は月次も行います。

(ア)顧客が買建てた場合

(借)デリバティブ取引 200,000円(貸)暗号資産売買等損益 200,000円

取引で生じる債権・債務の貸借対照表価額は時価評価となりますので、取引の差額分を貸借対照表に「デリバティブ取引」として計上します。

 

(イ)顧客が売建てた場合

(借)暗号資産売買等損益 200,000円(貸)デリバティブ取引 200,000円

 

4月1日

前期末で認識したみなし決済損益を振り戻します。月次で行う場合、毎月月初に振り戻します。

(ア)顧客が買建てた場合

(借)暗号資産売買等損益 200,000円(貸)デリバティブ取引 200,000円

 

(イ)顧客が売建てた場合

(借)デリバティブ取引 200,000円(貸)暗号資産売買等損益 200,000円

 

4月25日 決済時の処理

(ア)顧客が買建てた場合

期中でのみなし決済損益を月初や期初で振り戻すことを前提とした処理です。

(借)暗号資産売買等損益  200,000円(貸)受入保証金 200,000円

(借)顧客分別金信託 200,000円(貸)現預金 200,000円

 

(イ)顧客が売建てた場合

(借)受入保証金 200,000円(貸)暗号資産売買等損益200,000円

(借)現預金 200,000円  (貸)顧客分別金信託 200,000円

 

また、上記以外にも暗号資産取引業者における暗号資産のデリバティブ取引に係る会計処理について以下に記載します。

◇利用者から証拠金の代用として暗号資産(以下「証拠暗号資産」という。)を受け入れた場合

(借)利用者暗号資産×××  (貸)受入保証暗号資産×××

 

◇利用者からの預り金を証拠金として振り替えた場合

(借)利用者からの預り金×××  (貸)受入保証金×××

(借)顧客分別金信託×××  (貸)利用者区分管理信託×××

 

◇利用者からの預り暗号資産を証拠暗号資産として振り替えた場合

(借)利用者からの預り暗号資産×××  (貸)受入保証金×××