買いたたきの禁止に関する詳細解説②
引き続き、下請法についての解説を行っていきたいと思います。
前回、前々回では下記のように『買いたたきの禁止』について解説をしましたが、今回もこれの続きになります。
前回は、『買いたたきの禁止』に該当するか否かの実務的な判定のポイントについて詳細に解説し、具体的な事例を元にどのようなケースで下請法違反となるのか見てきましたが、今回も様々な事例に基づいて下請法違反のポイントの解説をしていきます。
繰り返しになりますが、昨今の上場準備の文脈においては法令遵守に関する基準が日に日に厳しくなっており、また下請法はどのような企業でも該当する可能性のある法律であるため、自社で同様の事象が起こっていないかどうか何度も確かめるとともに、徹底的な防止策を講じる必要があるのでぜひコラムの内容を理解しつつ、これらの知識を社内に徹底させてください。
1.納品後の下請代金の決定の事例
納品後の下請代金の決定の事例について解説します。(事例は中小企業庁が出している『ポイント解説 下請法』より抜粋)
親事業者は、下請代金の額を定めずに部品を発注し、納品された後に下請事業者と協議することなく、通常の対価相当と認められる下請事業者の見積価格を大幅に下回る単価で下請代金の額を定めた。
親事業者があらかじめ下請代金を決定しないで発注し、納品後に価格を交渉・決定すること自体が3条書面、及び5条書面の発行義務違反(これについては後のコラムを参照)となりますし、こうしたことはしない方が良いと思います。
一般論としても、下請事業者に取引しないという選択肢を失わせた状態で下請代金を交渉することとなり、ただでさえ親事業者側に有利になりがちな交渉が、下請事業者にとって非常に不利なものとなるでしょう。
そのため下請法では親事業者に対し、あらかじめ協議の上取り決めた下請代金の額を記載した発注書
面(3条書面、5条書面)を交付することを義務付けてもいます。
前提として子の事例では発注書面の不交付という下請法違反があるのですが、それに加えて部品が納品された後に親事業者が一方的に通常の対価を大幅に下回る単価を決定しており、『買いたたきの禁止』に抵触する可能性の高い行為です。
本来的にはこのケースでは発注書の不備を謝罪したうえで、下請事業者と協議し、下請事業者側に不利にならないような取引条件で下請代金を設定する必要があったと思われます。
2.短納期発注の事例について
短納期発注の事例について解説します。(事例は中小企業庁が出している『ポイント解説 下請法』より抜粋)
親事業者は、下請事業者との間で単価等の取引条件については年間取決めを行っているが、緊急に短い納期で発注する場合は別途単価を決めることとしていた。
親事業者は、週末に発注し週明け納入を指示した。下請事業者は、深夜勤務、休日出勤により納期に間に合わせ、当該加工費用は人件費が相当部分を占めることから年間取決め単価に深夜・休日勤務相当額を上乗せした下請単価で見積書を提出した。
しかし、親事業者は、下請事業者と十分な協議をすることなく、一方的に、通常の対価相当と認められる下請事業者の見積価格を大幅に下回る年間取決め単価で下請代金の額を定めた。
短納期発注により抽象的にコスト増が想定される場合がすべて買いたたきとして問題となるわけではありません。(効率化、合理化等によるコストの吸収努力を親事業者側が求めること自体は否定されるべきではないため)
しかしながら、労働基準法などでも認められている深夜、休日稼働が親事業者都合で生じたような今回のようなケースにおいて親事業者が通常対価で済ますということは社会通念的にも許容されないと思われます。
やむを得ない事情により下請事業者のコスト増となる場合に買いたたきに当たるかどうかは、下請代金
が給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低いかどうかに加え、下請代金の決定に当たり下請事業者と十分な協議が行なわれたかどうかがポイントになります。
今回のようなケースでも、下請事業者側の柔軟な対応に感謝し、今後も継続的に発注を行うというような協議を行えば下請事業者側も従前の下請代金を受け入れたかもしれません。下請法として問題になるケースのかなりの部分が下請事業者側からの告発になるので、下請事業者側と誠意をもって協議するという姿勢は形式的にだけでなく、実質的にも法的リスクを低減させることになります。
3.多頻度小口納入の事例について
多頻度小口発注の事例について解説します。(事例は中小企業庁が出している『ポイント解説 下請法』より抜粋)
親事業者は、従来、週一回であった配送を毎日に変更するよう下請事業者に申し入れた。下請事業者は、配送頻度が大幅に増加し、これに伴って1回当たりの配送量が小口化した場合は、運送費等の費用がかさむため従来の配送頻度の場合の下請単価より高い単価になるとしてこの単価で見積書を提出した。しかし、親事業者は、下請事業者と十分な協議をすることなく、一方的に、通常の対価相当と認められる下請事業者の見積価格を大幅に下回る単価で下請代金の額を定めた。
これも前章までに解説してきた事例と同様、合理的な理由のある値上要請に対して親事業者側が一方的に見積価額の大幅な減額を定めたという事例です。
原則通り、通常支払われる対価と比較して著しく低い価格ではないか、十分な協議がなされているかという基準により判定されますが、当然に通常支払われると想定される対価よりも低い価格で、かつ一方的に通知がなされていることからも下請法違反に該当すると思われます。
※今回のコラムでは一部法律問題を扱っておりますが、一般論も含め正確な記載をこころがけているものの、執筆当時の状況でもあり、また必ずしも公正取引委員会等の公式見解でもない点についてはご留意ください。
また、下請法全般について網羅的に記載している訳ではありませんので、ここに記載がないからといって適法性が保証される訳でもありません。
実際の実務において当コラムの内容を適用する際には、事前に必ず公正取引委員会や顧問弁護士等に問合せを行い、十分な検討を社内で行っていただくようお願い申し上げます。