買いたたきの禁止と下請代金の減額

引き続き、下請法、特に『買いたたきの禁止』の論点について解説をしていきたいと思います。

『買いたたき』の禁止について

買いたたきの禁止に関する詳細解説①

買いたたきの禁止に関する詳細解説②

過去のコラムは上記の通りです。

また、今回は『買いたたき』とよく似た『下請代金の減額』のケースについても解説を行っています。

いずれも実務上の論点として最重要なものですので、よく理解していただく必要があります。

1.その他のよくある『買いたたき』のパターン

買いたたきの禁止に関する詳細解説①、②で説明しなかった『買いたたき』のパターンについて、ここでは解説します。(いずれも中小企業庁が出している『ポイント解説 下請法』より抜粋)

事例⑴
多量の発注をすることを前提として下請事業者に見積りをさせ、その見積価格の単価を少量の発注しかしない場合の単価として下請代金の額を定めること。


前々回の買いたたきの禁止に関する詳細解説①でも登場し、親事業者は単価の決定に当たり下請事業者に1個、5個及び10個製作する場合の見積書を提出させましたが、10個製作する場合の単価(この単価は1個製作する場合の通常の対価を大幅に下回る)で1個発注したという事例です。


欺瞞的な対価の決定方法である点で問題があります。

事例
親事業者は、国際競争力を強化するためにはコストダウンをする必要があるとして主要な部品について一律に一定率引き下げた額を下請単価と定めたため、対象部品の一部の単価は通常の対価を大幅に下回るものとなった。

一律に一定比率で単価を引き下げて下請代金の額を定めた事例です。

コストの低減に取り組むこと自体は結構ですが、対価の決定に当たっては、品目ごとに下請事業者から見積書を取るなどの十分な協議を行なっていない点が問題です。

実務上、特に下請法違反になりやすいパターンなので注意しましょう。


 
事例⑶
親事業者は、自社の目標額を達成するためにはコストダウンする必要があるとして、一部の下請事業者が納入する部品について他の下請事業者が納入する同一の部品よりも著しく低い単価を定めた。

合理的な理由なく特定の下請事業者を差別して取り扱い、他の下請事業者より低い下請代金の額を定めた事例です。

差別的な価格を適用しなかった事業者の価格が「通常支払われる対価」と考えられますので、特に協議を行う事もなくこのような通知をした場合、下請法違反になると思われます。


事例⑷

親事業者は海外では国内よりも安い販売価格でないと売上が伸びないことを理由に、海外向けの製品に用いる部品について国内向けの製品に用いる同一の部品よりも著しく低い単価を定めた。

同種の給付について特定の地域又は顧客向けであることを理由に通常の対価より低い単価で下請代金の
額を定めた事例です。

そもそも親事業者側の事情は下請事業者が安い価格で納入する理由にはなりません。

この場合も、国内向け製品を製作している事業者の価格が「通常支払われる対価」と考えられますので、特に協議を行う事もなくこのような通知をした場合、下請法違反になると思われます。

2.下請代金の減額について

買いたたきに該当しない場合であっても、下請法違反になるケースは多々あります。

中でも減額は実務上もっとも多く存在するケースであり、注意が必要です。

下請代金の減額は、下請事業者に責任がないにもかかわらず発注書に記載した発注金額から一定額を減じて支払うことを全面的に禁止した規定です。

値引き、協賛金、歩引き等の減額の名目、方法、金額の多少を問わず、また、下請事業者との合意があっても下請法違反となる点に注意が必要です。

平成16年度以降勧告・公表された事件はほとんど減額に該当するものであり、上場準備企業が特に対応に注意する必要がある規定です。

3.下請代金の減額の具体的な事例について

下請代金の減額の具体的な事例について見ていきましょう。

実務上よくあるケースをまとめたので、ここに該当するようなことが社内外で行われないよう防止のための内部統制を構築する必要があります。

⑴単価の引下げ要求に応じない下請事業者に対して,あらかじめ定められた下請代金から一定の割合又は一定額を減額すること。

買いたたきとの違いですが、買いたたきが下請事業者への発注時点で生じる違反行為であるのに対し、下請代金の減額は、発注時に定められた額を事後的に差し引くことによって生じる、すなわち発注後に発生し得る違反行為です。

⑵「製品を安値で受注した」又は「販売拡大のために協力して欲しい」などの理由で,あらかじめ定められた下請代金から一定の割合又はー定額を減額すること。

下請代金の額から差し引く場合だけでなく、減額分を協力金として別に取り立てる場合も減額となるので注意しましょう。(あくまで実質で見られるということです。)


⑶販売拡大と新規販売ルートの獲得を目的としたキャンペーンの実施に際し、下請事業者に対して、下請代金の総額はそのままにして、現品を添付させて納入数量を増加させることにより、下請代金を減額すること。

下請代金の総額はそのままにしておいて、数量を増加させる場合も下請代金の減額に含まれるので注意しましょう。(下請法に関しては潜脱行為は概ね手当てがされているため自己解釈での対応は大きな事故のもとになるので絶対にやめましょう。)

⑷下請事業者との間に単価の引下げについて合意が成立し単価改定されたが、その合意前に既に発注されているものにまで新単価を遡及して適用すること。

また注意点としては、旧単価から新単価に引下げたときは、新単価は単価改定が合意された後の発注分からしか適用できません。既に発注した分まで遡及して新単価を適用をすると減額とみなされ、下請法違反となりますので注意しましょう。

⑸手形払を下請事業者の希望により一時的に現金払にした場合に、その事務手数料として、下請代金の
額から自社の短期調達金利相当額を超える額を減ずること。

名目を違えて不当な減額を行ったとみなされた場合は『下請代金の減額』として下請法違反となるので注意しましょう。


⑹下請事業者と合意することなく下請代金を銀行口座へ振り込む際の手数料を下請事業者に負担させ、下請代金の額から差し引くこと。
下請事業者との合意なしに下請代金から銀行振込手数料を差し引くことは認められません。また合意して差し引く場合でも、差し引くことのできる金額は親事業者が負担した実費の範囲内ですので、手数料を差し引くという名目で実費以上の控除を行い、実質的な下請代金の減額を行わないように注意しましょう。

⑺消費税・地方消費税額相当分を支払わないこと。

当然ですが、消費税分だけ下請事業者が経済的な損失を被ることになるので趣旨から言っても当然に『下請代金の減額』として下請法違反となります。

※今回のコラムでは一部法律問題を扱っておりますが、一般論も含め正確な記載をこころがけているものの、執筆当時の状況でもあり、また必ずしも公正取引委員会等の公式見解でもない点についてはご留意ください。

また、下請法全般について網羅的に記載している訳ではありませんので、ここに記載がないからといって適法性が保証される訳でもありません。

実際の実務において当コラムの内容を適用する際には、事前に必ず公正取引委員会や顧問弁護士等に問合せを行い、十分な検討を社内で行っていただくようお願い申し上げます。