繰延税金資産または繰延税金負債の計上方法
税効果会計を適用した場合、基本的には発生した将来減算一時差異または将来加算一時差異が繰延税金資産または繰延税金負債として計上されます。
仕訳としては、将来減算一時差異であれば
繰延税金資産 ×× 法人税等調整額 ××
将来加算一時差異であれば
法人税等調整額 ×× 繰延税金負債 ××
というシンプルなものですが、実はここに至るまでにはいくつかステップがあるのはあまり知られておりません。
今回は、将来加算一時差異や将来加算一時差異が発生した際に繰延税金資産、負債をどのようなプロセスで計上すればよいのかについて解説をしていきたいと思います。
1.繰延税金資産及び繰延税金負債の回収可能性
「税効果会計に係る会計基準」では、『繰延税金資産又は繰延税金負債は、一時差異等に係る税金の額から将来の会計期間において回収又は支払が見込まれない税金の額を控除して計上しなければならない』とされています。
これは、資産、負債の要件を考えればある意味当然で、概念フレームワークの資産の定義『企業が過去の事象の結果として支配している現在の経済的資源』に照らし合わせてみても、将来の会計期間において回収が見込まれない一時差異等は、経済的資源の要件を充たすとはいえず、資産計上できないと考えられるからです。
また、特に繰延税金資産については、『将来の回収の見込みについて毎期見直しを行わなければならない。』かつ『将来減算一時差異が解消されるときに課税所得を減少させ、税金負担額を軽減することができると認められる範囲内で計上するものとし、その範囲を超える額については控除しなければならない。』との記載もあります。
これも上記と同様の趣旨で、将来の会計期間において一時差異の解消時に課税所得を減少させて税負担額を軽減することができる範囲外の将来減算一時差異については、資産の定義のうちの経済的資源の要件を充たすとはいえず、資産計上できないと考えられますが、将来の課税所得の見積りは毎期変動すると考えられるため毎期繰延税金資産の回収可能性を見直す必要があるということを述べています。
2.繰延税金資産及び繰延税金負債の計上方法
前章でも少し触れましたが、繰延税金資産と繰延税金負債では回収可能性のルールが異なりますので、ここでは例示として繰延税金資産の計上について説明をしていきます。
繰延税金資産の計上については以下の2ステップで行います。
⑴将来の会計期間における将来減算一時差異の解消状況を見積り、税務上の繰越欠損金と課税所得(税務上の繰越欠損金控除前)との相殺します。繰越外国税額控除の余裕額の発生等に係る減額税金の見積も行い、これも考慮して将来減算一時差異を算定します。
⑵回収可能性適用指針に従って、その回収可能性を判断し計上します。
(3) 連結決算手続
連結財務諸表を作成している場合には、連結財務諸表固有の一時差異についても考察する必要があります。連結財務諸表固有の一時差異の注意点としては、納税主体ごとに税金の見積額を算定し、繰延税金資産を計上するという点です。
同様に、繰延税金資産と繰延税金負債の合算も納税主体ごとに行いますので注意しましょう。
3.繰延税金資産の相手勘定について
繰延税金資産/負債の相手勘定は、原則として法人税等調整額となります。
実務上は、個々の仕訳の積み上げというよりは、年度の期首における繰延税金資産の額と繰延税金負債の額の差額と期末における当該差額の増減額を繰延税金資産/負債として計上し、その反対勘定で法人税等調整額となるのが通常ですが、次に紹介するケースのように相手勘定が法人税等調整額にならない場合もあるので、必ずしも年度の法人税等調整額の増減額と繰延税金資産/負債の増減額が一致するとは限らない点に注意しましょう。
【相手勘定が法人税等調整額とならないケース⑴】
資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額が純資産の部に直入される場合やその他包括利益に計上される場合。
この場合の評価差額に係る一時差異に関する繰延税金資産/負債の相手勘定は、法人税等調整額ではなく当該評価・換算差額等となります。
例)投資有価証券 100 その他有価証券評価差額金 65
繰延税金負債 35
【相手勘定が法人税等調整額とならないケース⑵】
子会社に対する追加投資等で親会社の持分が変動することにより生じた差額を直接資本剰余金に計上する場合。
この場合も、親会社の持分変動による差額に係る一時差異に関する繰延税金資産/負債の相手勘定は、法人税等調整額ではなく資本剰余金を相手勘定となります。
4.繰延税金負債にの計上について
ここまで見てきたように、繰延税金資産については一時差異等のうちで一定の回収可能性要件を満たしたものだけを計上する取扱いとなっていました。
一方、繰延税金資産と異なり繰延税金負債は、原則として全ての将来加算一時差異について計上することになります。
ただし、繰延税金負債を計上しないと判断されるような例外ケースが存在しない訳ではないので、その点は注意が必要です。