税効果注記とその用語

前回までのコラムで、『税効果会計基準一部改正』について解説をしてきましたが、そもそもこの改正以前の基準はどうなっていたのでしょうか?

税効果会計は歴史のある基準ですが、同時に大きな改正もされており過去の会計処理や制定の経緯などを知らないと本当の意味で理解するのは難しい部分があります。

さて、税効果会計を適用することで損益計算書や貸借対照表に影響がありますが、その影響度を財務諸表利用者が適切に理解するため、様々な注記を行う事が義務付けられています。

今回は、『税効果会計基準一部改正』以前の基準である『税効果に係る会計基準』を参考にしつつ、税効果注記と税効果に関する基本的な用語を解説していきます。

なお、説明のベースは、『税効果に係る会計基準』、企業会計基準第28号『「税効果会計に係る会計基準」の一部改正』及び企業会計基準適用指針第28号『税効果会計に係る会計基準の適用指針』を参照しつつ、適宜筆者の方でより理解しやすい形で一部改変していることをご了承ください。

1.税効果注記の具体的内容

税効果会計基準では、税効果会計に関する注記事項として、次のような事項が定められています。


(1) 繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳(発生原因別の注記)
(2) 税金等調整前当期純利益又は税引前当期純利益(税引前純利益)に対する法人税等(法人税等調整額を含む)の比率(税負担率)と法定実効税率との間に重要な差異があるときは、当該差異の原因となった主要な項目別の内訳(税率差異の注記)
(3) 税率の変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときは、その旨及び修正額
(4) 決算日後に税率の変更があった場合には、その内容及びその影響

税効果注記の趣旨などについてはおいおい解説していくことになると思いますが、簡単に説明をするとそれぞれの注記の意味は下記のようになります。

⑴繰延税金資産/負債は、貸借対照表上に計上されるのは全てを合算した金額ではありますが、実際には様々な原因で発生した繰延税金資産及び繰延税金負債の合算金額が貸借対照表上の計上額となっているに過ぎません。発生原因別の注記は、この内訳を開示することによって計上されている繰延税金資産/負債への解像度を高め、見積項目である繰延税金資産/負債への理解を深めることを目的として注記されているものです。

⑵税率差異の注記は、理論上の法人税率である法定実効税率と実際の税負担率との間には、特に繰越欠損金がある場合等で大きな乖離がある場合があるため、注記するものです。

⑶繰延税金資産/負債は法改正等によって税率が変更された場合も金額が変わる可能性がありますが、この注記はそれを開示する目的で行われます。

⑷ ⑶と同様で、決算後であっても税率変更があると繰延税金資産/負債の金額が変わるため、それが確定した事実であれば後発事象の一環として開示する趣旨です。

2.税効果会計に関する用語解説

次に、『税効果会計に係る会計基準の適用指針』を掲載してある用語解説をしてみたいと思います。

⑴法人税等

税効果適用指針には、『法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金で、法人所得税、法人事業税、法人住民税から構成されます』と記載があります。

注意点としては、法人税だけでなく、利益連動型の法人税とほぼ同様の計算ロジックまたは、法人税率に依存した関連する一連の税もここに含まれる点です。


(2) 一時差異

税効果適用指針には、『連結貸借対照表及び個別貸借対照表に計上されている資産及び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額』とあります。

税務会計と制度会計では利益額が異なりますが、貸借一致の原則から資産負債も税務と会計で当然に異なってきます。この税務会計と制度会計の貸借対照表上の差異が一時差異(ただし永久に解消しない永久差異は除く)となります。

(3)一時差異等

税効果適用指針には、『一時差異及び税務上の繰越欠損金等の総称』とあります。

税務上の繰越欠損金は一時差異ではないものの、会計処理としては一時差異と同様に扱う事になるので、会計処理を検討する場面で頻出します。

(4) 財務諸表上の一時差異

税効果適用指針には、『個別財務諸表において生じる一時差異のことをいい、将来減算一時差異又は将来加算一時差異に分類される。
① 将来減算一時差異:財務諸表上の一時差異のうち、当該一時差異が解消する時にその期の課税所得を減額する効果を持つもの
② 将来加算一時差異:財務諸表上の一時差異のうち、当該一時差異が解消する時にその期の課税所得を増額する効果を持つもの』

とあります。

簿記一巡の原則で考えてみれば分かりますが、資産側で税務と会計の差異が生じていれば資産差異が解消されるときには費用が立ちますし、負債側で税務と会計の差異が生じていれば負債差異が解消されるときには収益が立ちます。

費用は課税所得を減少させ、収益は課税所得を増加させるので、それぞれ将来減算一時差異、将来加算一時差異となります。


(5) 連結財務諸表固有の一時差異

税効果適用指針には、『連結決算手続の結果として生じる一時差異のことをいい、課税所得計算には関係しない。当該一時差異は、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異に分類される。』とあります。

連結決算でも個別修正や連結修正仕訳が入りますから、これに税効果会計を適用することで発生する繰延税金資産や繰延税金負債も存在します。このような連結仕訳に付随して発生する一時差異を連結財務諸表固有の一時差異と言います。

① 連結財務諸表固有の将来減算一時差異

税効果適用指針には、『連結財務諸表固有の一時差異のうち、連結決算手続の結果として連結貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)が、連結会社の個別貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)を下回る(又は上回る)場合に、当該連結貸借対照表上の資産(又は負債)が回収(又は決済)される等により、当該一時差異が解消する時に、連結財務諸表における利益が減額されることによって当該減額後の利益の額が当該連結会社の個別財務諸表における利益の額と一致する関係を持つもの』とあります。

(5) 連結財務諸表固有の一時差異と同様で、連結仕訳も税効果会計の対象となるので将来減算一時差異が発生します。

② 連結財務諸表固有の将来加算一時差異

税効果適用指針には、『連結財務諸表固有の一時差異のうち、連結決算手続の結果として連結貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)が、連結会社の個別貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)を上回る(又は下回る)場合に、当該連結貸借対照表上の資産(又は負債)が回収(又は決済)される等により、当該一時差異が解消する時に、連結財務諸表における利益が増額されることによって当該増額後の利益の額が当該連結会社の個別財務諸表における利益の額と一致する関係を持つもの』とあります。

(5) 連結財務諸表固有の一時差異と同様で、連結仕訳も税効果会計の対象となるので将来加算一時差異が発生します。


(6) 課税所得

税効果適用指針には、『法人税等に係る法令の規定に基づき算定した各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の益金の額が損金の額を超える場合におけるその超える部分の金額』とあります。

一言で言うと、税務会計上の利益です。あくまで税法における収益(益金)と費用(損金)の差額なので、会計上の利益とは異なる点に注意してください。

(7) 税務上の欠損金

税効果適用指針には、『法人税等に係る法令の規定に基づき算定した各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の損金の額が益金の額を超える場合におけるその超える部分の金額』とあります。

税務上のマイナスの利益剰余金です。一定条件の下で将来の課税所得と相殺ができるため、税効果会計に対する影響も非常に大きいです。

(8) 法定実効税率
税効果適用指針には、『法定実効税率 = 法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率/(1+事業税率)』とあります。

法人税等には法人税以外の税金も含まれるため、その税率を算定する必要がありますが、上記の算式に当てはめることで法人税等の税率(法定実効税率)を求めることができます。