上場審査では実際に何が行われるか
上場審査について
上場審査には、主幹事証券会社による審査と取引所による審査があります。
主幹事証券会社による審査は、日本証券業協会が定める「有価証券の引き受け等に関する規則」に基づいて行われます。
一方、取引所による審査は「有価証券上場規程」に定める実質審査基準に基づいて行われ、上場適格性を満たしていることを判断する審査です。
どちらの審査も、取引所の「有価証券上場規程」に定められている形式審査基準を満たすことを前提に審査が行われます。形式審査基準とは、資産、株主数、利益などについて各市場において最低限満たしていなければならない数値基準のことであり、これに対して実質審査基準とは、企業の継続性、健全性、収益性、開示の適正性などについて定めた基準です。
上場申請を行うにあたり、主幹事証券会社は上場申請企業が上場会社として問題ない旨を記載した推薦書を取引所に提出する必要があります。なお、推薦書の提出は上場承認日の3営業日前までに提出しなければなりません。このため、推薦人となる主幹事証券会社は、申請企業が上場会社にふさわしい会社であるかどうかを調査するために、取引所への上場申請に先立って審査を実施します。
主幹事証券会社の審査は、上場申請企業に対する書面による質問、その回答に基づく上場準備担当者などへのインタビュー、事業所や店舗・工場などの実査、経営者・監査役・独立役員との面談、監査法人との面談、などを通じて実施されます。審査期間は、会社の規模や事業の複雑性などにより異なりますが、一般的に半年程度です。
取引所による審査も概ね主幹事証券会社による審査と同様に実施されます。市場ごとに審査に要する期間は異なりますが、通常は上場申請から承認まで2~3カ月です。なお、日本取引所自主規制法人の理事会において審議が必要となる上場申請企業の場合は、標準審査期間に加えて1カ月以上の審査期間が必要となります。
形式審査基準および実質審査基準
国内主要市場における上場基準
市場第一部 | 市場第二部
JASDAQスタンダード |
マザーズ | |
株主数
(上場時見込み) |
800人以上 | 400人以上 | 150人以上
※上場時までに500単位以上の公募を行うこと |
流通株式
(上場時見込み) |
・流通株式数2万単位以上
・流通株式時価総額100億円以上 ・流通株式数(比率)上場株券等の35%以上 |
・流通株式数2,000単位以上
・流通株式時価総額10億円以上 ・流通株式数(比率)上場株券等の25%以上 |
・流通株式数1,000単位以上
・流通株式時価総額5億円以上 ・流通株式数(比率)上場株券等の25%以上 |
時価総額
(上場時見込み) |
250億円以上 | (要件なし) | (要件なし) |
事業継続年数 | 新規上場申請日から起算して、3か年以前から取締役会を設置して、継続的に事業活動をしていること | 同左 | 新規上場申請日から起算して、1か年以前から取締役会を設置して継続的に事前活動をしていること |
純資産の額
(上場時見込み) |
連結純資産の額が50億円以上
(かつ、単体純資産の額が負でない) |
連結純資産の額が正 | (要件なし) |
利益の額又は売上高 | 次のa又はbに適合すること
a.最近2年間における利益の額の総額が25億円以上 b.最近1年間の売上高が100億円以上かつ時価総額が1,000億円以上 |
最近1年間の利益の額が1億円以上 | (要件なし) |
国内主要市場における実質審査基準
市場第一部、市場第二部、JASDAQスタンダード | マザーズ |
・企業の継続性及び収益性
(市場第一部)継続的に事業を営み、安定的かつ優れた収益基盤を有していること (市場第二部、JASDAQスタンダード)継続的に事業を営み、かつ、安定的な収益基盤を有していること |
・企業内容、リスク情報等の開示の適切性
企業内容、リスク情報等の開示を適切に行うことができる状況にあること |
・企業経営の健全性
事業を公正かつ忠実に遂行していること |
・企業経営の健全性
事業を公正かつ忠実に遂行していること |
・企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性
コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が適切に整備され、機能していること |
・企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性
コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、企業の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能していること |
・企業内部等の開示の適正性
企業内部等の開示を適正に行うことができる状況にあること |
・事業計画の合理性
相応に合理的な事業計画を策定しており、当該事業計画を遂行するために必要な事業基盤を整備していること又は整備する合理的な見込みのあること |
・その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項 | ・その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項 |
主幹事証券による審査
・書面による質問、インタビュー
審査範囲は、事業内容・ビジネスモデルの把握、予算および中期経営計画の達成可能性、過年度の業績推移の要因把握、会計処理の妥当性、内部管理体制の有効性、関連当事者との取引関係の妥当性、反社会的勢力との関係の有無まで多岐にわたります。これらの質問事項に対して、数週間程度の回答期限内に正確に回答しなければならず、また回答内容・期限の遵守状況からも主幹事証券会社は上場申請企業の内部管理体制の十分性を審査していると考えられるため、慎重かつ迅速な対応を心がける必要があります。
更に、回答内容およびインタビューを通じて主幹事証券会社は上場申請企業の把握と上場会社としての適格性や株式の引き受けを判断するため、情報が不十分な場合や正確ではない場合は追加確認が発生し、上場スケジュールに影響を与える可能性があります。
・事業所や店舗・工場などの実査
上場申請企業の上場準備担当者への書面による質問およびインタビューを実施し、上場申請企業に対する理解が進んだフェーズで、事業所や店舗・工場などの実査が行われます。資産の実在性や規程などに基づいて業務が行われているかについて確かめることが趣旨であり、必要に応じて従業員などにインタビューを行う場合もあります。
・監査法人との面談
上場申請企業の内部統制制度の整備状況、会計処理の妥当性などについて、監査法人との面談が行われます。基本的には審査がかなり進んだ段階で実施されますが、特殊な会計処理を採用している場合やその妥当性について見解の相違が生じる場合などには、複数回にわたって検討が行われるケースもあります。
・経営者・監査役・独立役員との面談
審査の最終段階では、経営者に対して自社や業界についてのビジョンや、上場会社となった際の株主への対応(IR活動の取り組み方針など)、業績開示に関する体制および内部情報管理に関する体制などについて確認するための面談が行われます。
また、監査役に対しては原則として、常勤監査役に対して実施している監査の状況や上場申請企業の抱える課題、内部監査室、監査法人との連携状況について確認するための面談が実施されます。
独立役員に対しては、上場申請企業のコーポレート・ガバナンスに対する方針、現状の体制および運用状況、独立役員の職務遂行のための環境整備の状況、経営者が関与する取引の有無や当該取引への牽制状況などについての評価、また、上場後に独立役員として期待される役割・機能などに対する認識について確認するための面談が行われます。
・中間審査
主幹事証券会社によっては、直前期に中間審査、申請期に最終審査と審査を2回に分けて実施するケースがあります。中間審査では上場申請企業のビジネス全般と直前々期までの財政状態および経営成績についての審査が実施され、最終審査では中間審査で課題となった事項あるいは要改善事項について状況を確認するとともに、直前期の財政状態および経営成績を中心に審査が実施されます。
・その他
反社会的勢力との関係を有していないこと、公益性・公序良俗に反しないこと、事業の根幹に係る訴訟・係争がないこと、法令を遵守した企業経営がなされていることなどについては、審査の各段階で確認されます。
取引所による審査
主幹事証券会社による審査後、上場申請企業は新規上場申請に関する各種書類を取引所に提出し取引所では上場申請企業が形式基準を充足しているかの確認を行います。その後、実質審査基準による審査を開始し、実質審査は主幹事証券会社の審査と同様に、以下のような流れで実施されます。
- 書面による質問およびヒアリング
- 実地調査
- 監査法人へのヒアリング
- 社長インタビュー
- 監査役インタビュー
- 独立役員インタビュー
- 社長説明会