税効果会計基準一部改正における注記事項
前回に引き続き、税効果会計についての解説をしていきたいと思います。
今回は、税効果注記についてです。税効果会計を適用することで損益計算書や貸借対照表に影響がありますが、その影響度を財務諸表利用者が適切に理解するため、様々な注記を行う事が義務付けられています。
1.税効果注記の具体的内容
税効果会計基準では、税効果会計に関する注記事項として、次のような事項が定められています。
(1) 繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳(発生原因別の注記)
(2) 税金等調整前当期純利益又は税引前当期純利益(税引前純利益)に対する法人税等(法人税等調整額を含む)の比率(税負担率)と法定実効税率との間に重要な差異があるときは、当該差異の原因となった主要な項目別の内訳(税率差異の注記)
(3) 税率の変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときは、その旨及び修正額
(4) 決算日後に税率の変更があった場合には、その内容及びその影響
どれも非常に専門的な内容になりますので詳細な解説が必要になります。(これらは別のコラムで取り上げたいと思います。)
今回のコラムでは、一部改正が行われた際にどのような議論が行われたかについての概説をしたいと思います。
2.必要な注記情報の検討過程
注記事項の追加検討に際し、財務諸表利用者がどのように税効果会計に関連する注記事項を利用しているのかについて、その目的、分析内容、実際に利用している情報を検討する必要がありました。
特に財務諸表利用者の中でも、「主として株価予測を行う財務諸表利用者」と「主として企業の信用力の評価を行う財務諸表利用者」を中心として、その分析内容及び現状において不足している情報の検討が行われました。
主として株価予測を行う財務諸表利用者ですが、これは株式等の運用を行うファンドや投資銀行、証券会社の運用部門、個人投資家・トレーダーや機関投資家を想定していると思われます。
また、主として企業の信用力の評価を行う財務諸表利用者とは、格付機関や各種の与信管理を行う金融機関、債権を仲介する証券会社、保証機関などが該当すると思われます。
まず主として株価予測を行う財務諸表利用者ですが、これらは一般的に、6 か月から 1 年後程度の株価
を予想し、当該株価に対して現在の株価が割安か割高かについての分析を行っているといわれています。
また彼らは将来の株価について、主に株価収益率(PER)、株価純資産倍率(PBR)、ディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)、又はそれらのうち複数を用いて予想しています。
となると、これらの分析において、将来 2 年から 5 年後の予想財務諸表(貸借対照表、損益計算書及びキャッシュ・フロー計算書)をベースとした将来の 1 株当たり利益(EPS)若しくは 1 株当たり純資産(BPS)又は DCF を算出するには、将来の税負担率の予測が重要となってくると考えられます。
この税負担率を予測する過程においては、繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価を行い税金費用の金額を予測することが行われることが予想されます。
一方で、主として企業の信用力の評価を行う財務諸表利用者についても、一般的に、上で述べたような分析が行われます。
加えて、これら主として企業の信用力の評価を行う財務諸表利用者は、企業の財務の安全性や債務の返済能力(自己資本比率や債務償還年数)についての分析・検証を行っているため、これらの分析において必要な繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価はいずれにしても必要になります。
また、財務安全性や返済能力という観点からは、税負担率の予測も必要です。
このように、財務諸表利用者が税負担率の予測の観点及び繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価の観点から分析を行うことに着目し、実際に利用している情報を検討した結果、当時の状況において不足している情報としては、評価性引当額の内訳に関する情報、税務上の繰越欠損金に関する情報及び税法の改正による影響額が識別されました。(評価性引当額の内訳に関する情報及び税務上の繰越欠損金に関する情報については、次回以降のコラムで紹介します。)
3.税法の改正による影響について
税法の改正による影響について、最後にまとめてみます。
税法の改正による影響額については、財務諸表利用者が、当年度の税負担率から一過性の原因により生じたものを除いて将来の税負担率を予測する場合、税率の変更による影響のみならず、当該影響を含む税法の改正による影響を考慮することとなると考えられます。
それを踏まえた上で、これを注記として追加すべき項目とするか否かについて検討が行われました。
検討の結果、税法の改正の内容を注記する場合、繰延税金資産及び繰延税金負債に重要な影響を与えるものを特定した上で、税法の改正を考慮していないことを前提にした繰延税金資産及び繰延税金負債を算定する必要があり、特に在外子会社の税制は多様であることから当該算定が煩雑であるとの意見が聞かれたため、コストと便益の比較の観点から、税法の改正による影響額を注記事項に追加しないこととなりました。