税効果会計基準一部改正について
多くの企業が法人税(法人所得税)、法人事業税、法人住民税といった税金を納付(赤字企業であっても法人事業税の資本割や付加価値割があるためほとんどの企業が納付することになります)しますが、これらに関連する非常に大きな会計上の論点として、『税効果会計』があります。
税効果会計は、(もっとも簡易な説明をするとすれば)税務上の利益と会計上の利益が異なることによる時間的な差異を起因として行われる処理ですが、論点が多く、また難解であることによって、経理担当者においても監査担当者においても実務経験と高い専門能力を必要とするものとなっています。
税効果会計に関連した論点をこれから解説していきたいと思いますが、今回のコラムではまず、現在の関連する基準として何があるか、そしてそれらの歴史的背景を中心に解説をしていきたいと思います。
1.税効果会計に係る関連基準及び適用指針等
現時点において生きている税効果会計に関する基準及び適用指針としては、下記のようなものがあります。
- 企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」(「税効果会計基準一部改正」)
- 企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(「税効果適用指針」)
- 改正企業会計基準適用指針26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(「改正回収可能性適用指針」)
- 企業会計基準適用指針第29号「中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針」(「中間税効果適用指針」)
とりわけ目立つのが、企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」(「税効果会計基準一部改正」)で、『改正』の方が基準として取り扱われています。
今回のコラムでは、これらの経緯・背景も含めて解説をしていきたいと思います。
2.税効果会計基準一部改正の経緯
税効果会計基準一部改正に先立ち、平成27年12月には回収可能性適用指針が公表されました。
この回収可能性適用指針の公開草案を公表する前における審議の過程においては、税効果会計基準及び同注解では繰延税金資産の回収可能性に関連する注記事項について、以下のような意見があったそうです。
それは、当時、繰延税金資産の発生原因別の主な内訳等が定められていましたが、投資家を初めて財務諸表利用者からは、計上されている繰延税金資産や評価性引当額の内容を十分に理解することが困難であるというものでした。
ここでいう評価性引当額とは、将来減算一時差異が解消するときに課税所得を減少させ、税金負担額を減額すると認められる範囲でのみ計上されている繰延税金資産について、回収可能性がないことから、その減額範囲を超えると判断されて部分的に繰延税金資産から控除した金額のことを指します。
繰延税金資産の回収可能性について適用指針で定めたことにより、その分類(詳細は回収可能性適用指針の解説のコラムを参照)によって繰延税金資産の計上額異なることとなり、例えば年度をまたいだことによって回収可能性の分類が変化すると、繰延税金資産の計上額にも大きな変動が起こり得ることから新たにこのような規定が設けられたと考えられます。
3.税効果会計に関する用語解説
最後に、税効果会計に関する導入として税効果会計に関する用語解説をしていきます。
⑴法人税等
法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金で、法人所得税、法人事業税、法人住民税から構成されます。
(2) 一時差異
連結貸借対照表及び個別貸借対照表に計上されている資産及び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額
(3)一時差異等
一時差異及び税務上の繰越欠損金等の総称
(4) 財務諸表上の一時差異
個別財務諸表において生じる一時差異のことをいい、将来減算一時差異又は将来加算一時差異に分類される。
① 将来減算一時差異:財務諸表上の一時差異のうち、当該一時差異が解消する時にその期の課税所得を減額する効果を持つもの
② 将来加算一時差異:財務諸表上の一時差異のうち、当該一時差異が解消する時にその期の課税所得を増額する効果を持つもの
(5) 連結財務諸表固有の一時差異
連結決算手続の結果として生じる一時差異のことをいい、課税所得計算には関係しない。当該一時差異は、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異に分類される。
① 連結財務諸表固有の将来減算一時差異:
連結財務諸表固有の一時差異のうち、連結決算手続の結果として連結貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)が、連結会社の個別貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)を下回る(又は上回る)場合に、当該連結貸借対照表上の資産(又は負債)が回収(又は決済)される等により、当該一時差異が解消する時に、連結財務諸表における利益が減額されることによって当該減額後の利益の額が当該連結会社の個別財務諸表における利益の額と一致する関係を持つもの
② 連結財務諸表固有の将来加算一時差異:
連結財務諸表固有の一時差異のうち、連結決算手続の結果として連結貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)が、連結会社の個別貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)を上回る(又は下回る)場合に、当該連結貸借対照表上の資産(又は負債)が回収(又は決済)される等により、当該一時差異が解消する時に、連結財務諸表における利益が増額されることによって当該増額後の利益の額が当該連結会社の個別財務諸表における利益の額と一致する関係を持つもの
(6) 課税所得
法人税等に係る法令の規定に基づき算定した各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の益金の額が損金の額を超える場合におけるその超える部分の金額
(7) 税務上の欠損金
法人税等に係る法令の規定に基づき算定した各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の損金の額が益金の額を超える場合におけるその超える部分の金額
(8) 法定実効税率
法定実効税率 = 法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率/(1+事業税率)