税効果会計基準一部改正について

多くの企業が法人税(法人所得税)、法人事業税、法人住民税といった税金を納付(赤字企業であっても法人事業税の資本割や付加価値割があるためほとんどの企業が納付することになります)しますが、これらに関連する非常に大きな会計上の論点として、『税効果会計』があります。

税効果会計は、(もっとも簡易な説明をするとすれば)税務上の利益と会計上の利益が異なることによる時間的な差異を起因として行われる処理ですが、論点が多く、また難解であることによって、経理担当者においても監査担当者においても実務経験と高い専門能力を必要とするものとなっています。

税効果会計に関連した論点をこれから解説していきたいと思いますが、今回のコラムは、平成30年2月16日と比較的最近公表された『「税効果会計に係る会計基準」の一部改正』の改正点についての歴史や改訂の趣旨などを見ていくことで、税効果についてより理解を深めることを意図しています。

1.税効果会計に係る関連基準及び適用指針等

税効果会計には、その理論的な難解さを証明するように関連する基準や適用指針が数多くあり、また改正も何度も行われています。

現時点において生きている税効果会計に関する基準及び適用指針としては、下記のようなものがあります。

  • 企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」(「税効果会計基準一部改正」)
  • 企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(「税効果適用指針」)
  • 改正企業会計基準適用指針26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(「改正回収可能性適用指針」)
  • 企業会計基準適用指針第29号「中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針」(「中間税効果適用指針」)

今回取り上げるのが、企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」(「税効果会計基準一部改正」)で、この『改正』が名前に反して基準のような位置づけになっていますので十分に注意してください。(会計の専門家と議論する際は必ず準拠する基準などを引用したり、あらかじめ調べたりする必要がありますが、この『改正』の部分に重要な規定が設けられていることも多くこれが基準に相当するものだという知識は確実に必要になります。)

2.『一部改正』における改正点

税効果会計基準一部改正においては、数多くの改正が行われました。

その趣旨や詳細についてはこれから説明していきますが、まずは全体像を把握するためどのような改正が行われたのかについてまとめてみました。

①表示に関する改正点

有報や四半報で繰延税金資産や繰延税金負債が貸借対照表の一項目として開示されますが、『税効果会計基準一部改正』以前と以後では表示の仕方が異なっていました。

具体的には、下記のように改正が行われました。

⑴繰延税金資産は投資その他の資産の区分に表示し、繰延税金負債は固定負債の区分に表示する。

⑵同一納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、双方を相殺して表示する。
⑶異なる納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、双方を相殺せずに表示する。

これはどういう改正かというと『税効果会計基準一部改正』以前は、一年基準で1年内に解消する繰延税金資産負債は流動資産/流動負債に、1年超の繰延税金資産/負債は固定資産/負債にという分類を行っていました。

『税効果会計基準一部改正』による改訂を機に、この規定がなくなり解消年度に関わらず固定分類とされるようになりました。

また、これに伴い繰延税金資産と繰延税金負債の相殺ルールも整理され、例えば親子会社で繰延税金資産と繰延税金負債がそれぞれ発生しているような場合には相殺しない、親会社内の繰延税金資産と繰延税金負債は相殺するという形に改めてなりました。

②注記事項に関する改正点

注記事項については、『税効果会計基準一部改正』を機に充実が図られ様々な規定が追加されました。

具体的には、

【1】繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳についての改訂

繰延税金資産や繰延税金負債は、その発生原因が多種多様にわたるため発生原因別の内訳を注記するよう『税効果に係る会計基準』において定められていました。

それに伴い、繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳について以下のような充実が求められるようになりました。

具体的には、繰延税金資産の発生原因別の主な内訳を注記するあたり、評価性引当額(※)の記載が求められるようになりました。

次に、これがややこしいのですが、繰延税金資産の発生原因別の主な内訳の中に『税務上の繰越欠損金』がある場合、評価性引当額は、税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額と将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額に区分して記載することも求められるようになりました。(補足として、重要性がある場合という注釈が付いているので金額的に僅少な場合までもこれを適用する必要はない点には留意しましょう。)

さらに、評価性引当額に重要な変動が生じている場合、変動内容を注記することも求められるようになりました。ただし連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表でも重複して記載する必要ははありませんのでご留意ください。

(※)評価性引当額とは、繰延税金資産から控除された額のことです。

【2】繰延税金資産の発生原因別の主な内訳として税務上の繰越欠損金を記載している場合に注記すべき事項が具体的に定められました。


(A) 繰越期限別の税務上の繰越欠損金に係る次の金額
a. 税務上の繰越欠損金の額に納税主体ごとの法定実効税率を乗じた額
b. 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)
c. 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の額
(B) 税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合、当該繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由

ただし連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表の方はこの注記を行う必要ははありませんのでご留意ください。

またこの場合も⑵と同様、重要性がある場合という注釈が付いているので金額的に僅少な場合までもこれを適用する必要はない点には留意しましょう。