セール・アンド・リースバック取引の概要及びメリット・デメリットについて

今回のテーマは、セール・アンド・リースバック取引です。

セール・アンド・リースバック取引は会計処理上も難しい論点が多いのですが、そもそもセール・アンド・リースバック取引が何かが分かっていないと会計処理の解説もできません。

今回のコラムでは、セール・アンド・リースバック取引が実務上どのような利用のされ方をしていて、どのようなメリットやデメリットがあるかについてまとめてみました。

1.セール・アンド・リースバック取引の概要

セール・アンド・リースバック取引は、保有資産を売却したうえで賃貸借契約を結びなおすことによって、当該資産を売却後も継続利用することができるようにする一連の手続をいいます。

リース料の算定などは割引率の計算など専門性が高く、一般的な事業会社との間でセール・アンド・リースバック取引が行われることはほとんどなく、金融機関や専門のリース業者との間でセール・アンド・リースバック取引が行われることが普通です。

当然ですが、通常の売却取引の場合、売却した資産は所有権が移転し、自社で継続使用することはできません。しかし、セールアンドリースバック取引を行うことで、売却した会社は買い手にリース料を支払えば売却した資産を引き続き使用できます。

いわゆる資産流動化の手法の一つですが、次の章で見るようにメリットも多く、利用する企業も一定数あるため実務で遭遇することも十分にあり得る論点の一つです。

2.セール・アンド・リースバック取引のメリット

セール・アンド・リースバック取引にはいくつかのメリットがあります。

以下、セール・アンド・リースバック取引のメリットについて解説していきたいと思います。

①資金調達のメリット

セール・アンド・リースバック取引のメリットとして大きいのが、資金調達の効果があるという点です。

資産を売却することでまとまった資金が入手でき、それをリース料支払という形で期間費用(サブスク契約)に変換すれば、実質的にはこの取引は、資産を担保として融資を受け、それにたいする返済を行っているのと一緒になります。すなわち、実質的な資金調達です。

したがって企業に資金需要が発生した際に、セール・アンド・リースバック取引によって実質的な資金調達ができるというのが大きなメリットとなります。

②資金用途の柔軟性

一つ皆さんが疑問に思われるであろう点として、それならば通常の金融機関からの融資と同様にセール・アンド・リースバック取引に利用した資産を担保として借入を行うことによる資金調達をすれば良いのではないか、というものです。

実はセール・アンド・リースバック取引には、金融機関の融資と比べて大きなメリットが一つあります。それが、資金使途の拘束性がないという点です。

金融機関から借入を行うと、その資金使途について拘束されるのが普通です。資金繰り目的で借りた融資を設備投資資金とすることはできませんし、その逆も然りです。(特に、長期の設備投資資金等を短期の資金繰りに利用することはご法度です。)

一方でセール・アンド・リースバック取引は、法形式的上は売却とリースを組み合わせているだけなので、調達した資金をどのような使途に用いようとまったく問題はありません。したがって、融資による資金調達と比べて資金使途が柔軟であるのがメリットになります。

③管理コスト・維持コストの低減

経理業務を経験したことのある方なら実感できると思いますが、(有形)固定資産は非常に管理コスト・維持コストが高い資産です。

固定資産税や都市計画税、償却資産税など固定資産を対象にかかってくる税金は種類が多いですし、土地や建物などは元々の金額も大きいため、税務的な負担が大きいです。

また、固定資産台帳を作成し、減価償却計算を誤りなく行ったうえで、税務申告や計算書類附属明細の固定資産明細、有価証券報告書等の固定資産関係の注記、毎期の減損や取得時の資産除去債務の検討など会計上の論点や会計処理にかかるコストは莫大です。

セール・アンド・リースバック取引により固定資産を売却するこで帳簿から固定資産を消すことができれば(リース資産として残存する場合もあります)、これらの負担から解放されることになります。

また、実態としての固定資産を維持・管理するにも管理会社への支払いや、倉庫等のレンタル、固定資産担当職員の雇用などコストがかかってきます。

セール・アンド・リースバック取引によりこれらのコストを低減させることができるというのが大きなメリットとなります。

④資産の継続利用

4つ目のメリットとしては、資産の継続利用が挙げられます。

自社所有の不動産などを単に売却してしまった場合には、移転などで莫大な費用がかかるケースがありますし、移転などに伴い従業員が退職してしまうリスクもあります。

こうしたデメリットを回避できるのもセール・アンド・リースバック取引のメリットといえます。

⑤災害リスク等の低減

不動産や固定資産を所有することは一般的に企業の信用を高めます。

一方で、災害等による全損や事故等による大幅な価値低下が起こった場合、そのリスクはほぼ全て所有する企業側が負うことになります。

セール・アンド・リースバック取引は、所有権をリースの貸手側に移行させることになるので、こうした災害等による損害のリスクを低減し、事業側でよりリスクテイクした経営姿勢を取ることができるようになるというメリットがあります。

3.セール・アンド・リースバック取引のデメリット

セール・アンド・リースバック取引には当然デメリットもあります。

代表的なデメリットとして、以下の2つがあります。

①価格面でのデメリット

確実にそうとは言えませんが、一般的にセール・アンド・リースバック取引は上記で述べたようなメリットがあるため、単純な売却取引または金融取引としてみた場合には、売却価格や金利面で割高な金額を要求されるケースが多いようです。

実際にセール・アンド・リースバック取引を検討する際には、価格面でのデメリットを上回るメリットを享受できるのかを慎重に検討したほうがよいでしょう。

②改修などの困難性

自社で保有する場合と比べ、セール・アンド・リースバック取引では所有者はリースの貸し手側となるので、改修などが自分たちの自由にはできなくなります。

もちろん完全にできなくなる訳ではありませんが、あくまで所有者であるリースの貸し手側の意思になりますので注意が必要です。