繰延税金資産の回収可能性について初歩から学ぶ

税効果会計についての説明を続けて学んできていますが、実務上もっとも誤りやすく難解な論点となるのが「繰延税金資産の回収可能性」です。

回収可能性の論点については、熟練の経理部員や経験のある公認会計士でも誤ることがあるくらい複雑な論点ですので、関連する適用指針「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」の熟読も含め、何度もテキストと実務を往復しながら学んでいく必要があります。

この後の一連のコラムでこの繰延税金資産の回収可能性という論点について解説をしていきたいと思いますが、まずは大前提となる基本的な知識について今回は取り扱っています。

詳細な解説を行う前に、まずは前提となる基礎的な内容から学んでいきましょう。

1.繰延税金資産の資産性が認められるための前提条件

我が国の会計基準の根幹にある考え方を定め、企業会計(特に財務会計)の基礎にある前提や概念を体系化したものに『概念フレームワーク』があります。

この概念フレームワークには、財務報告の目的から、各用語の厳密な定義まで詳細に記載があるのですが、この概念フレームワークには資産の定義として以下の記載があります。

『資産とは、過去の取引または事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源をいう』

税効果会計を適用した結果計上される繰延税金資産も資産に分類されますから、当然にこの定義を充足しなければなりません。

では、繰延税金資産の資産性とは何でしょうか?

結論から言うと、繰延税金資産の資産性の本質は『将来の税金費用の支払削減額』ということになります。

これを概念フレームワークに当てはめて考えてみましょう。

まず、概念フレームワークの『過去の取引または事象の結果』という部分についてですが、繰延税金資産の発生は、税務会計と制度会計による税金支払額と税金負担額の差異ということが原因ですから、過去の事象の結果として発生するという条件は充足します。

もっともこの要件は、資産に限らず会計数値全般にいえることで、過去の取引または事象の結果として計上しない会計数値は存在しえないので、どちらかといえば当然の前提を確認したものとなります。

重要なのは次の要件で、資産性の肝となるものですが、『報告主体の支配する経済的資源』についてはどうでしょうか?

まずこの要件は2つに分解することができ、「報告主体の支配」という所有要件と「経済的資源」というキャッシュフロー生成要件に分かれます。

繰延税金資産に当てはめると、税金の支払主体は当該企業になりますから「報告主体の支配」という要件は満たしますし、財務報告した利益額に以上の税金の先払いをすることによって将来の税金支払額が減少し、(将来黒字を計上したときに)結果として将来キャッシュフローが節減されることによってキャッシュフローを生み出すと考えれば、経済的資源という要件も充たすことができます。

この議論を踏まえた上で、次に回収可能性という概念の解説をします。

2.繰延税金資産の回収可能性とは?

繰延税金資産の資産性、特に経済的資源という観点からすれば、あくまで繰延税金資産として計上し得るのは、将来の税金負担額を軽減する効果を有するものに限られます。

ということは、単に当期の利益に対する税務会計上計算した税金支払額が、本来あるべき税金負担額と異なる(税金支払額>税金負担額の通常のケースを想定)というだけでは繰延税金資産を計上することはできないということになります。

すなわち、税金支払額として前払いした税金費用が将来の会社の利益(黒字)で回収することができる蓋然性を有しているかの判断が必要という事であり、この蓋然性が認められてはじめて繰延税金資産という資産が計上することができます。

この一連のプロセスを繰延税金資産の回収可能性の判断といいます。

3.繰延税金資産の回収可能性の判断について

繰延税金資産の回収可能性の判断については別途解説の機会があると思いますが、ここではごく簡単に説明を行います。

具体的にはこの繰延税金資産の判断は、収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得(ここでは単に税務上の利益と考えておいてください)の十分性、タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の十分性及び将来加算一時差異の十分性のいずれかを満たしているかどうかにより判断するものとされています。

ここで、将来加算一時差異、将来減算一時差異という用語が出てきますが、(これも詳細はまた別に解説しますが)簡単にいうと、税務会計と制度会計の差異のうちで、将来の税金費用を減額する効果を持つものが『将来減算一時差異』、将来の税金費用を増額する効果を持つものが『将来加算一時差異』となります。


タックスプランニングにより赤字でも税金の前払いを回収できるケースもありますが、基本的には繰延税金資産は利益により回収するのが一般的です。すなわち、一時差異等加減算前課税所得を将来十分に計上できるか、簡単にいうと税務上の利益をプラスにできるかがポイントとなります。

であれば、一時差異等加減算前課税所得の十分性を判断する際には、将来減算一時差異については、その解消見込年度及び繰戻・繰越期間に一時差異等加減算前課税所得が生じる可能性が高いと見込まれるかどうか、税務上の繰越欠損金については、その繰越期間に一時差異等加減算前課税所得が生じる可能性が高いと見込まれるかどうかで判断するということになります。


なお、将来において収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得が生じる可能性が高いかどうかを判断するためには、過年度の納税状況及び将来の業績予測等を総合的に勘案し、課税所得の額を合理的に見積もる必要があると考えられていますが、これは当然でしょう。

以上を踏まえた上で、次回はより詳細な回収可能性についての論考を行っていきたいと思います。