リース取引の金融的取引的性質について
前回のコラムでは、リース会社をレッサー(賃貸人)、ユーザーをレッシー(賃借人)といい、リース取引は手数料ビジネスというより、その本質は、レッサーからレッシーへの貸付であり、金融取引ではないかという示唆をしました。
今回はこの論点について深入りしつつ、さらにそれを発展させてファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引の違いについても見ていきたいと思います。
1.リース取引の金融取引的性質
前回のコラムでリース取引のメリット・デメリットを整理しましたが、ここにリース取引の本質をつかむうえでの重要なヒントが隠されています。
リース取引のメリットとして色々な点がありましたが、大きいのは初期費用がかからず、資金繰りにプラスになるという点でした。一方で、手数料が割高になりがちで総コストはリース取引の方が大きくなることがほとんどであるということも説明しました。
実は、これは借入のメリットと全く同様であることにお気づきになられたでしょうか?
リース取引のレッシーを資金の借手、レッサーを資金の貸手と考えてみましょう。
レッサーは資金余力のある企業で、コピー機などの備品を余剰キャッシュで購入したと仮定します。
次に、レッシーは事業上初期投資が必要な反面、資金繰りの良くない企業で、レッサーから備品をリースしたとします。
この場合、レッサーはコピー機自体を販売することもできるのですから、リースによって回収する総収益は備品の販売収益を上回らないとリース取引を行う経済合理性がありません。
したがって、リース料総額は同一物品の購入価格を上回るはずで、これがリース料が割高になる理由です。
ここで、もしリースの借手が金融機関などから借入を行って備品の購入を行ったと仮定しましょう。
この場合、所有権が借手にあるか貸手にあるかという違いはあれど、実はリース取引と同様の結果となります。
リースの借手は、借入を行うことで当面の資金の心配はなくなりました。一方で、今後一定期間にわたって返済というキャッシュアウトが生じます。そして、返済には利息がかかりますから、リースの借手が支払った総支払額は、備品の購入コストを利息の分だけ上回ります。
このようなケースにおいて返済をリース料、リース料の割高となった部分を利息と考えれば、ほぼ借入取引と同じ結果となります。
これがリース取引の金融的側面で、リース会計を理解するうえで極めて重要となります。
2.ファイナンス・リースとオペレーティング・リース
ここでリース会計を理解するうえで重要な概念であるファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引について見ていきます。
文字通り、前章で説明したリースの金融的側面を理解することがこのファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引を理解するうえでの肝になります。
公開草案によれば「ファイナンス・リース」の定義は、
契約に定められた期間(以下「契約期間」という。)の中途において当該契約を解除することができないリース又はこれに準ずるリース(以下合わせて「解約不能のリース」という。)で、借手が、原資産からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該原資産の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリースをいう。
となっています。
一方でオペレーティング・リース取引は
ファイナンス・リース以外のリースをいう。
となっています。
ファイナンス・リース取引の要件として
⑴解約不能(ノン・キャンセラブル)
⑵実質的な経済的利益の享受とコストの実質的負担(フルペイアウト)
の二つに分かれます。
この2要件を充たした場合には、『ファイナンス・リース取引』として金融取引とみなすことができるというロジックです。
⑴のノン・キャンセラブルは、言い換えると資金拘束がされることと同じ意味です。
解約可能な場合は、中途解約することでキャッシュアウトを止めることができるため融資という金融取引という性質が薄れます。(なお、契約上は解約可能でも、残りのリース料の全額を解約料として支払う条件が付帯されているケースなども多く、このように解約に経済的メリットが全くないため実質的には解約不能と同義のリース取引についても、解約不能と考えます。)
⑵はフルペイアウトといって、耐用年数≒リース期間となるような取引をいいます。
このような場合には、リースした資産を使用して得られた便益は基本的にはリースの借手に帰属し、またコストもリース料を通じてリースの借手が負担することになります。
だとすれば、上記の⑴⑵の要件を充たす場合には、このリース取引は、リースの借手がリースの貸手から資金を借りて、備品や固定資産を購入して耐用年数まで使用した後に廃棄した連続する取引と実質的にはほぼ同じであると考えられないでしょうか?
すなわち、ファイナンス・リース取引とは、実質的な融資(金融取引)とみなせるリース取引を意味しています。
一方でオペレーティング・リース取引は、これに該当しないリース取引ということで、通常の賃貸借と考えてください。
このファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引の違いは、別のコラムでも述べたようにリースの借手の会計処理としては公開草案の中で否定されています。
しかし、リースの貸手の会計処理としては依然として残っているのと、公開草案によるリース基準改訂の経緯を理解するうえでも非常に重要になるのできちんと理解しておきましょう。