下請法の禁止行為について⑤

引き続き、下請法の禁止行為について解説をしていきたいと思います。

※過去のコラムについてはこちら

下請法の禁止行為について①

下請法の禁止行為について②

下請法の禁止行為について③

割引困難な手形の交付の禁止について

下請法の禁止行為について④

『買いたたき』の禁止について

買いたたきの禁止に関する詳細解説①

買いたたきの禁止に関する詳細解説②

買いたたきの禁止と下請代金の減額

買いたたきの禁止や下請代金の減額など、主要な禁止事項については解説をしておりますが、他にも様々な禁止事項があり、どれに抵触したとしても下請法違反として大変な法務リスクを負うことになるので注意が必要です。

今回は、下請法第4条第1項第6号『購入・利用強制の禁止』について解説をしていきたいと思います。

1.購入・利用強制の禁止(4条1項6号)

下請法第4条第1項第6号『購入・利用強制の禁止』について解説をしていきたいと思います。

下請法第4条第1項第6号
親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第1号及び第4号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。
(6)下請事業者の給付の内容を均質にし又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。

下請事業者に発注する物品の品質を維持するためといった正当な理由がないにもかかわらず、親事業者が下請事業者に対して親事業者指定の製品や原材料等を強制的に下請事業者に購入させたり、サービス等を強制的に下請事業者に利用させたりするケースがあります。

こうした行為は、上記の条文の通り下請法違反となります。

中小企業庁からは、購入・利用の強制について以下のような類型が例示されています。

(ア)購買・外注担当者等下請取引に影響を及ぼすこととなる者が下請事業者に購入・利用を要請すること。
(イ)下請事業者ごとに目標額又は目標量を定めて購入・利用を要請すること。
(ウ)下請事業者に対して、購入又は利用しなければ不利益な取扱いをする旨示唆して購入・利用を要請すること。
(エ)下請事業者が購入・利用する意思がないと表明したにもかかわらず、又はその表明がなくとも明らかに購入・利用する意思がないと認められるにもかかわらず、重ねて購入・利用を要請すること。
(オ)下請事業者から購入する旨の申出がないのに、一方的に下請事業者に物を送付すること。

これは、親事業者が指定した物又は役務を下請事業者に強制して購入・利用させることを原則として禁止し、親事業者が自社商品やサービス等を下請事業者に押し付け販売することを防止するための規定です。

親事業者が指定した「物」は、原材料等だけでなく親事業者又は関連会社等が販売する物、その他、親事業者の製品以外でも下請事業者の購入の対象として特定した物は全て含まれます。

「役務」とは、親事業者又は関連会社等が提供するものであって、下請事業者の利用の対象となる役務が全てが含まれ、保険、リース、インターネット・プロバイダ等のサービスも含まれます。

自社の製品やサービスだけではなく、自社の取引先である特約店・卸売店又は自社の子会社・関係会社等の製品やサービスも含まれます。

次に「強制して」購入させる又は利用させるというのがどこまで含まれるか見ていきます。

公正取引委員会によれば、物の購入又は役務の利用を取引の条件することには、購入しないことや利用しないことに対して不利益を与える場合や、下請取引関係を利用して事実上、購入または利用を余儀なくさせる場合も含まれるので注意しましょう。

一般に互いに独立した企業同士が任意に購入等を依頼する場合は購入・利用強制に該当しませんが、下請取引においては、親事業者が任意に購入等を依頼したと思っていても下請事業者にとってはその依頼を拒否できない場合もあり得ると考えられます。したがって、その依頼が事実上、下請事業者に購入等を余儀なくさせていると認められる場合には下請法違反となります。

上場準備企業においては、この相手先の企業が資本関係を有する企業である場合等は関連当事者取引でも論点になる可能性があるので、取引以前に法務部をはじめとするコーポレート部門において厳重な検討が行われる体制作りが必須となります。

2.違反行為事例

次に、購入・利用強制の禁止に抵触する違反行為事例について見ていきたいと思います。

製造委託、修理委託における違反行為事例
親事業者A社は、肉製品の加工を下請事業者B社にに委託しています。自社製品のセールスキャンペーンを行うので、各工場の購買・ 外注担当部門等を通じて下請事業者に対して、下請事業者ごとに目標額を定めて自社製品の購入を要請して購入させましたが、これは下請法4条第1項第6号『購入・利用強制の禁止』に抵触し、下請法違反となります。

情報成果物作成委託における違反行為事例

親事業者C社は、機器管理プログラムの作成等を下請事業者に委託しています。C社は昨今の業績悪化を改善するため、下請事業者が必要としていないことを認識しながら、下請事業者に対して委託内容とは関係のない自社製品である暗号化プログラムの購入を要請し、購入させましたが、これは下請法4条第1項第6号『購入・利用強制の禁止』に抵触し、下請法違反となります。

※今回のコラムでは一部法律問題を扱っておりますが、一般論も含め正確な記載をこころがけているものの、執筆当時の状況でもあり、また必ずしも公正取引委員会等の公式見解でもない点についてはご留意ください。

また、下請法全般について網羅的に記載している訳ではありませんので、ここに記載がないからといって適法性が保証される訳でもありません。

実際の実務において当コラムの内容を適用する際には、事前に必ず公正取引委員会や顧問弁護士等に問合せを行い、十分な検討を社内で行っていただくようお願い申し上げます。