下請法の禁止行為について⑥
引き続き、下請法の禁止行為について解説をしていきます。
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今回は、下請法第4条第1項第7号『報復措置の禁止』及び下請法第4条第2項第1号『有償支給原材料などの対価の早期決済の禁止』について解説をしていきたいと思います。
1.報復措置の禁止
下請法第4条第1項第7号『報復措置の禁止』について解説をしていきます。
親事業者にとって下請法違反は大きなダメージですから、下請事業者が親事業者の下請法違反行為を公正取引委員会又は中小企業庁に報告したことで、親事業者から取引数量を減らされたり、取引停止をされたりするなど、不利益な取扱いをされるおそれがあります。
下請法第4条第1項第7号では、以下のようにこうした不当な取り扱いをすることを禁止しています。
下請法第4条第1項第7号
親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第1号及び第4号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。
(7)親事業者が第1号若しくは第2号に掲げる行為をしている場合若しくは第3号から前号までに掲げる行為をした場合又は親事業者について次項各号の1に該当する事実があると認められる場合に下請事業者が公正取引委員会又は中小企業庁長官に対しその事実を知らせたことを理由として、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすること。
この規定が定められた趣旨は、親事業者の報復を恐れず下請事業者が公正取引委員会や中小企業庁に下請法違反を申告できるようにするというものです。
2.有償支給原材料などの対価の早期決済の禁止の趣旨
下請法第4条第2項第1号『有償支給原材料などの対価の早期決済の禁止』について解説をしていきたいと思います。
まず有償支給とは、何かということですが、これは支給元(ここでは親事業者)が材料・部品等の加工を外部の外注先に委託する場合に有償で原材料や部品を支給するような形態の取引を言います。
外注先における加工後に、加工された材料・部品等を(通常は有償支給した価格を考慮して、すなわち有償支給分に加工費を乗せた金額で※)購入する取引です。
※ただし、加工後の再購入価格とは無関係に支給単価を設定する実務もあるので、結局は親事業者と下請事業者の関係性によります。
親事業者は下請事業者よりも強い交渉力を持っているのが普通なので、有償支給で給付に必要な半製品、部品、附属品又は原材料を有償で自己から購入させた場合、親事業者が下請事業者に対して不当な条件、特に不当な決済条件を事実上強制するような実務がよくあります。
たとえば、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、 有償支給の原材料や部品の加工後の給付に対する下請代金の支払期日より早期に対価または対価の一部を下請事業者に支払わせたり、下請代金から 控除したりといったことです。
条文としては下記の通りです。
下請法第4条第2項第1号
親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第1号を除く。)に掲げる行為をすることによつて、下請事業者の利益を不当に害してはならない。
(1)自己に対する給付に必要な半製品、部品、附属品又は原材料(以下「原材料等」という。)を自己から購入させた場合に、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、当該原材料等を用いる給付に対する下請代金の支払期日より早い時期に、支払うべき下請代金の額から当該原材料等の対価の全部若しくは一部を控除し、又は当該原材料等の対価の全部若しくは一部を支払わせること。
上の事例のように親事業者が有償で支給した原材料等の対価に対する早期の決済を強要されると下請事業者は、支払遅延の場合と同様に資金繰りが苦しくなるといった不利益を被ることになります。
下請事業者の利益を不当に害することになるので下請法ではこれを禁止し、有償支給にかこつけて親事業者が下請事業者に対して不当な早期決済がなされないようにしようという意図でこの条文が制定されています。
3.下請事業者の責めに帰すべき理由と違反行為事例
次に条文上の「下請事業者の責めに帰すべき理由」として、具体的にどのような状況を想定しているかについて見ていきます。
責めに帰すべき理由としては、下記のようなものが挙げられます。
1.下請事業者が支給された原材料等を毀損し、又は損失したため、親事業者に納入すべき物品の製造が不可能となった場合
2.支給された原材料等によって不良品や注文外の物品を製造した場合
3.支給された原材料等を他に転売した場合
有償支給の取引は、親事業者が自社製品を製造するために下請事業者に対して原材料や部品を支給する取引ですから、当然ですが、この有償支給された原材料や部品は、親事業者の製品製造のために使用するのが大前提です。
にもかかわらず、下請事業者側がそれを下請事業者の過失により毀損したり、他の物品を製造したり、転売してしまったりしたことが起因で生じたことであれば、それは下請法違反とはなりません。
逆に言えば、そうした下請事業者側に明らかな過失がある場合を除けば、違反行為事例となる可能性が高いです。
たとえば違反行為事例としては、下記のようなものがあります。
製造委託、修理委託における違反行為事例
親事業者A社は自社製品の製造の一部を下請事業者B社に委託しています。親事業者A社は下請事業者に有償で原材料を支給していますが、 原材料を加工して納品するまでの期間を考慮せずに、原材料を使用した物品が納品される前に当該原材料の対価を下請代金から控除するなど、 当該原材料を使用した物品に係る下請代金の支払期日よりも早い時期に下請代金から当該原材料の対価を控除しました。これは、下請法第4条第2項第1号『有償支給原材料などの対価の早期決済の禁止』に抵触するため、下請法違反となります。
典型的な下請法第4条第2項第1号違反の事例で、親事業者の都合で有償支給分を委託代金から差し引くといったことは、親事業者が下請事業者に不当な取引条件を押し付けることになり、下請法違反となります。
※今回のコラムでは一部法律問題を扱っておりますが、一般論も含め正確な記載をこころがけているものの、執筆当時の状況でもあり、また必ずしも公正取引委員会等の公式見解でもない点についてはご留意ください。
また、下請法全般について網羅的に記載している訳ではありませんので、ここに記載がないからといって適法性が保証される訳でもありません。
実際の実務において当コラムの内容を適用する際には、事前に必ず公正取引委員会や顧問弁護士等に問合せを行い、十分な検討を社内で行っていただくようお願い申し上げます。