下請法の禁止行為について⑦
引き続き、下請法の禁止行為について解説をしていきたいと思います。
※過去のコラムについてはこちら
今回は、下請法第4条第2項第3号『不当な経済上の利益の提供要請の禁止』及び下請法第4条第2項第4号『不当な給付内容の変更および不当なやり直しの禁止』について解説をしていきます。
下請法の禁止行為については長く解説をしてきましたが、今回でひと段落となるので全シリーズを通同区してよく理解をしていただければと思います。
1.不当な経済上の利益の提供要請の禁止
下請法第4条第2項第3号『不当な経済上の利益の提供要請の禁止』について解説をしていきます。
親事業者が下請事業者に対し、協賛金などの名目で金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることがあります。
これは取引上で直接下請事業者の利益を削るといった行為ではないものの、実質的には下請事業者から親事業者への利益の移転が行われており、下請法の趣旨から言っても禁止されるべき行為です。
条文上は下記のようになっています。
下請法第4条第2項第3号
親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第1号を除く。)に掲げる行為をすることによつて、下請事業者の利益を不当に害してはならない。
(3)自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
親事業者が強いという力関係を利用し、下請事業者が親事業者のために協賛金、従業員の派遣等の経済上の利益を提供させられることは、当然に下請事業者の利益が不当に害されることとなり下請法違反となります。
下請法第4条第2項第3号の規定はこうした親事業者への不当な利益移転を防止する趣旨となります。
2.不当な経済上の利益の提供要請の禁止に関する違反行為事例
次に、下請法第4条第2項第3号『不当な経済上の利益の提供要請の禁止』についての違反行為事例を見ていきます。
製造委託、修理委託における違反行為事例
親事業者A社は、食料品の製造を委託している下請事業者B社に対して年度末の決算対策として、協賛金の提供を要請しました。これを受けてB社は、A社との力関係や今後の取引継続を打ち切られることへのおそれなどからA社の指定した銀行口座に振込みを行いましたが、これは第4条第2項第3号『不当な経済上の利益の提供要請の禁止』に抵触するため下請法違反となります。
情報成果物作成委託における違反行為事例
鉄道業を営む親事業者C社は、自社の住宅販売部門が販売する住宅の設計図の作成を下請事業者Dに委託しています。C社は自社の広告宣伝のための費用を確保するため、下請事業者Dに対し、「協賛金」として一定額を提供させましたが、これは第4条第2項第3号『不当な経済上の利益の提供要請の禁止』に抵触するため下請法違反となります。
どちらも『協賛金』の名目で金銭を提供させた事例です。
名目上は自主的に出資したかの外形がありますが、力関係を考えれば下請事業者側には実質的な拒否権がないと思われ、下請法違反となります。
注意点として、『協賛金』のような金銭の供与でなくても人員の派遣や広告宣伝の実施、何らかのサービス利用の強制など経済的利益供与であれば全て含まれますので、基本的に上場準備企業はこうした下請法違反となりえるような取引は行わないようにしましょう。
3.不当な給付内容の変更および不当なやり直しの禁止
下請法第4条第2項第4号『不当な給付内容の変更および不当なやり直しの禁止』について解説をしていきます。
親事業者が自社都合で下請事業者の給付受領前にその内容を変更させたり、役務提供委託の場合に役務の提供後に給付のやり直しをさせるといったことが実務上あります。
下請事業者の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず、こうしたことを行うのは下請事業者の利益を不当に害することになり下請法法違反となります。
条文は下記のようになります。
下請法第4条第2項第4号
親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第1号を除く。)に 掲げる行為をすることによつて、下請事業者の利益を不当に害してはならない。
(4)下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ、又は下請事業者の給付を受領した後に (役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)給付をやり直させること。
下請事業者の責めに帰すべき理由がないような状況下で親事業者が下請事業者に対し、費用を負担せずに給付の内容の変更を行うことや、やり直しをさせることは不当です。
下請事業者からすれば当初委託された内容と異なる不要な作業が追加で発生するので、そうした追加作業によるコストも追加で発生して下請事業者の利益が損なわれます。
下請法第4条第2項第4号『不当な給付内容の変更および不当なやり直しの禁止』の趣旨は、こうした親事業者都合での下請事業者の利益の毀損を防止することにあります。
4.不当な給付内容の変更および不当なやり直しの禁止の違反行為事例
以下が違反行為事例となります。
製造委託、修理委託における違反行為事例
親事業者A社は、下請事業者B社に部品の製造を委託しています。この発注を受けて下請事業者B社はすぐに原材料等を調達しました。ところが、親事業者A社の輸出向け製品の売行きが悪く製品在庫が急増したことから、親事業者A社は発注を取りやめたいと考えました。親事業者A社はまだ納品されていないため取消可能と一方的に判断し、下請事業者に対して調達コストを負担することなく、部品の発注の一部を取り消しましたが、これは第4条第2項第3号『不当な給付内容の変更および不当なやり直しの禁止』に抵触するため下請法違反となります。
情報成果物作成委託における違反行為事例
親事業者C社は、下請事業者D社に対してソフトウェアの開発を委託していました。仕様についてはユーザーを交えた打合せ会で決めることとしていましたが、親事業者C社は決められた内容について書面で確認することをせず、下請事業者から確認を求められても明確な指示を行いませんでした。その結果、下請事業者はやむを得ず自社判断に基づき作業を行って納入をしようとしましたが、親事業者C社は決められた仕様と異なることを理由に下請事業者に対して無償でやり直しを求めましたが、これは第4条第2項第3号『不当な給付内容の変更および不当なやり直しの禁止』に抵触し、下請法違反となります。
※今回のコラムでは一部法律問題を扱っておりますが、一般論も含め正確な記載をこころがけているものの、執筆当時の状況でもあり、また必ずしも公正取引委員会等の公式見解でもない点についてはご留意ください。
また、下請法全般について網羅的に記載している訳ではありませんので、ここに記載がないからといって適法性が保証される訳でもありません。
実際の実務において当コラムの内容を適用する際には、事前に必ず公正取引委員会や顧問弁護士等に問合せを行い、十分な検討を社内で行っていただくようお願い申し上げます。