親事業者の義務と3条書面

前回までのコラムで下請法における禁止事項について勉強してきました。(禁止事項についてや過去の下請法の解説は『4.過去の下請法に関するコラム(保管庫)』を参照してください。)

下請法では、禁止事項に加えて親事業者の義務が定められており、今回はこの親事業者の義務について解説をしていきたいと思います。

1.親事業者の義務について

下請法では、下請取引の公正化および下請事業者の利益保護を目的として、親事業者には次のような4つの義務が課されています。

親事業者の義務義務の概要
書面の交付義務(下請法第3条)発注の際は,直ちに3条書面を交付すること。
支払期日を定める義務(第2条の2)下請代金の支払期日を給付の受領後60日以内に定めること。
書類の作成・保存義務(第5条)下請取引の内容を記載した書類を作成し,2年間保存すること。
遅延利息の支払義務(第4条の2)支払が遅延した場合は遅延利息を支払うこと。

それぞれ解説をしていきたいと思います。

まずは、『書面の交付義務(下請法第3条)』についてです。

2.書面の交付義務(下請法第3条)

前章でみたように下請法における親事業者は、『3条書面』を直ちに下請事業者に交付義務があります。

『3条書面』とは、発注に際して以下の【3条書面に記載すべき具体的事項】をすべて記載した書面のことで、一般的には『注文書』『発注書』といわれるものがそれに該当します。

【3条書面に記載すべき具体的事項】
(1) 親事業者及び下請事業者の名称(番号・記号等による記載も可)
(2) 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
(3) 下請事業者の給付の内容(委託の内容が分かるよう明確に記載する。)
(4) 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、役務が提供される期日又は期間)
(5) 下請事業者の給付を受領する場所
(6) 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は、検査を完了する期日
(7) 下請代金の額(具体的な金額を記載する必要があるが、算定方法による記載も可)
(8) 下請代金の支払期日
(9) 手形を交付する場合は、手形の金額(支払比率でも可)及び手形の満期
(10) 一括決済方式で支払う場合は、金融機関名、貸付け又は支払可能額、親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
(11) 電子記録債権で支払う場合は、電子記録債権の額及び電子記録債権の満期日
(12) 原材料等を有償支給する場合は、品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日、決済方法

この規定の趣旨としては、親事業者は下請事業者に対して条件を明示せずに発注することがよくあり、条件を明示せずに発注したことを逆手にとって下請事業者に不利な取引条件を押し付けるような事態を未然に防止することにあります。

親事業者に3条書面、すなわち注文書や発注書を強制することで、親事業者が禁止事項に該当するような契約を締結していればそれが下請法違反の証拠となりますし、それゆえに下請法禁止事項は3条書面に記載することができず、親事業者は下請事業者に対して禁止事項となるような要求を法的根拠をもって行う事ができないことになります。

なお、発注書や注文書のフォーマットが公正取引委員会が出している下記のガイドブックに掲載されています。

下請代金支払遅延等防止法ガイドブック

もし上場準備企業が発注書や注文書の交付を会社としてきちんとできていないのであれば、こうしたフォーマットを参考に、自社の発注書や注文書交付のための内部統制を早急に構築する必要があります。

3.発注書または注文書作成時の留意点について

発注書や注文書の交付という3条書面に関する下請法対応について、実務上よく問題となる論点があるので解説します。

それは、3条書面の交付は当然に発注時、すなわち下請事業者が役務提供や製造に取り掛かる前に行う必要がありますが、発注時に価格や数量等が定まらず発注条件の設定ができないケースがあります。

ここでは、そういった場合の実務上の対応について見ていきたいと思います。

実務上の対応を解説する前に下記の下請法の条文を見て下さい。

(書面の交付等)

第三条 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。

条文の但書以下に注目していただきたくて、第3条においても、以下なる場合においても発注内容を確定させないといけないとは書いておりません。

たとえば、仮単価による発注というのが実務上よくあるパターンで、発注時に正式な単価が決められない場合に、仮単価等正式な単価でないことを明示した上で、仮単価による発注を行う事は差し支えありません。

たとえば、天候などによって役務提供の内容や回数が変わるといった場合のように発注時に発注内容が定まらない正当な事由がある場合は、決まっている事項だけを記載した当初書面を交付し、後に内容が定まった時点において補充書面を交付することは3条にも定めがあるように可能です。


ただし、そうしたケースでも、最初の発注書には単価を決められない理由や単価が決定する予定期日等を記載する必要があります。


なお、最初の発注書に仮単価を記載し(仮単価であることを明示した上で)、後に補充書面を出して正式単価を示すことも可能です。

また、下請代金の額として「算定方法」を記載できる場合には、「算定方法」を記載します。これはたとえば、役務提供委託において1記事○○円といった形です。

留意点としては、単価が決定できるにもかかわらず決定しない場合には「正当な事由がある」とはみなされず下請法法違反となるので注意しましょう。

4.過去の下請法に関するコラム(保管庫)

過去の下請法に関するコラムは下記の通りとなります。下請法には様々な論点が存在するので、下記のコラムを参照にしつつ全体像を見失わないようにしてくださいね。

上場準備における下請法対応について①

上場準備における下請法対応について②

下請法の影響範囲について①

下請法の影響範囲について②

下請法の禁止行為について①

下請法の禁止行為について②

下請法の禁止行為について③

割引困難な手形の交付の禁止について

下請法の禁止行為について④

『買いたたき』の禁止について

買いたたきの禁止に関する詳細解説①

買いたたきの禁止に関する詳細解説②

買いたたきの禁止と下請代金の減額

下請法の禁止行為について⑤

下請法の禁止行為について⑥

下請法の禁止行為について⑦

※今回のコラムでは一部法律問題を扱っておりますが、一般論も含め正確な記載をこころがけているものの、執筆当時の状況でもあり、また必ずしも公正取引委員会等の公式見解でもない点についてはご留意ください。

また、下請法全般について網羅的に記載している訳ではありませんので、ここに記載がないからといって適法性が保証される訳でもありません。

実際の実務において当コラムの内容を適用する際には、事前に必ず公正取引委員会や顧問弁護士等に問合せを行い、十分な検討を社内で行っていただくようお願い申し上げます。

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