親事業者の義務と5条書類

引き続き、下請法の親事業者の義務について解説をしていきます。

前回は親事業者の義務及び3条書面の解説をしました。

今回は、3条書面と非常によく似た『5条書類』の義務について解説をしていきます。

上場準備企業においても、3条書面のケアはしていても5条書類の保管義務について知らず、証券審査や東証審査で躓いた事例があるようです。

禁止事項についてや過去の下請法の解説、及び3条書面に関する解説は『4.過去の下請法に関するコラム(保管庫)』を参照してください。

1.5条書類の作成・保存義務

親事業者が下請事業者に対し製造委託等をした場合、必要事項を記載した書類(いわゆる5条書類)を作成し2年間の保存が下請法第5条により義務付けられています。

まず、第5条の条文をみてみましょう。

(書類等の作成及び保存)
親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、公正取引委員会規則で定めるところ により、下請事業者の給付、給付の受領(役務提供委託をした場合にあつては、 下請事業者がした役務を提供する行為の実施)、下請代金の支払その他の事項について記載し 又は記録した書類又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない 方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成し、 これを保存しなければならない。

この第5条の趣旨としては、下請取引の内容を親事業者に作成・保存させることで行政機関の検査の迅速さ、正確さを確保する点があるといわれています。

5条書面の具体的な記載事項は、「下請代金支払遅延等防止法第5条の書類又は電磁的記録の作成及び 保存に関する規則(5条規則)」に以下のように定められています。

(1)下請事業者の名称(番号、記号等による記載も可)

(2)製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日

(3)下請事業者の給付の内容(役務提供委託の場合は、役務の提供の内容)

(4)下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、役務が提供される期日又は期間)

(5)下請事業者から受領した給付の内容及び給付を受領した日(役務提供委託の場合は、役務が提供された日又は期間)

(6)下請事業者の給付の内容(役務提供委託の場合は、提供される役務の内容)について、検査をした場合は、その検査を完了した日、検査の結果及び検査に合格しなかった給付の取扱い

(7)下請事業者の給付の内容について、変更又はやり直しをさせた場合は、その内容及び理由

(8)下請代金の額(下請代金の額として算定方法を記載した場合には、その後定まった下請代金の額を記載しなければならない。また、その算定方法に変更があった場合、変更後の算定方法、その変更後の算定方法により定まった下請代金の額及び変更した理由を記載しなければならない。)

(9)下請代金の支払期日

(10)下請代金の額に変更があった場合は、増減額及びその理由

(11)支払った下請代金の額、支払った日及び支払手段

(12)下請代金の全部又は一部の支払につき、手形を交付した場合は、その手形の金額、手形を交付した日及び手形の満期

(13)下請代金の全部又は一部の支払につき、一括決済方式で支払うこととした場合は、金融機関から貸付け又は支払を受けることができることとした額及び期間の始期並びに親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払った日

(14)下請代金の全部又は一部の支払につき、電子記録債権で支払うこととした場合は、電子記録債権の額、支払を受けることができることとした期間の始期及び電子記録債権の満期日

(15)原材料等を有償支給した場合は、その品名、数量、対価、引渡しの日、決済をした日及び決済方法

(16)下請代金の一部を支払い又は原材料等の対価の全部若しくは一部を控除した場合は、その後の下請代金の残額

(17)遅延利息を支払った場合は、遅延利息の額及び遅延利息を支払った日

2.5条書類と3条書面の関係性

上記の5条書類の記載事項は、見ていただくと分かるように3条書面と非常に類似しています。

これは趣旨などを考えると当然で、3条書面は下請事業者に対して事前の条件通知を義務付けるもの、5条書類は下請事業者の役務提供後にその役務提供内容も含め、詳細に記録させることで管理を促すとともに、中小企業庁などの検査の迅速な実施と、情報未整備を理由とした非協力に対して罰則を科すことができるための予防措置という意味合いが強いと思われ、両者はいずれも下請事業者との契約内容や役務提供の実態を記録として保存することにあるためだからです。

一方で、3条書面と5条書類の大きな違いとして、3条書面の作成が給付または役務提供前であるのに対し、5条書類は役務提供後であるというものがあります。

3条書面に記載義務がなく5条書類に記載義務がある事項の多くは、給付または役務提供の内容や検収・検査の実施日など、給付や役務提供に関するものが多いです。

3条書面と5条書類の趣旨と両者の記載事項の相違を比べてみると、下請法3条と下請法5条の違いがよく理解できると思います。

3.上場準備文脈における5条書類の実務上の運用方法について

上場準備文脈においては、この下請法3条と5条の両方について対応する必要がありますが、現代的な環境下でどのように運用するかについては少し工夫が必要になると思います。

内部統制の基礎ですが、重要なのは有効性と効率性の両方を担保することで、そのためには情報の一元管理と網羅性の担保、情報の重複の排除が重要です。

管理面での基礎としては、3条書面をどのように発行し、管理するかというのがまず重要になります。

現代的な環境ではこれは、SaaS系のツールや自社会計ソフトの補助的な機能を利用し、先方から出される請求書などと結び付けて管理するのがベストです。(その際には伝帳法の要件を充足するのを忘れないようにしてください)

こうしてIT化しておけば、すくなくとも3条書面の保管と管理は問題なく行えます。

また、5条書類については、この3条書面の管理簿(これはツールから出るのが理想)をもとに作成するのがよいと思います。

コストがかけられないのであれば、3条書面の管理簿をGoogleのスプレットシートなどに転記し、3条書面と差分の情報を手入力などで入れればよいでしょう。

発注書の発行件数が多すぎて管理が大変な場合には発注管理システムの中にこれを入れ込むといいと思います。

いずれにしても、5条書類を作成することでしか発注書の網羅性(下請法対象に発注書が発行されているか)の管理を完璧に行う事はできないので、必ずこれを作成するようにしましょう。

4.過去の下請法に関するコラム(保管庫)

過去の下請法に関するコラムは下記の通りとなります。下請法には様々な論点が存在するので、下記のコラムを参照にしつつ全体像を見失わないようにしてくださいね。

上場準備における下請法対応について①

上場準備における下請法対応について②

下請法の影響範囲について①

下請法の影響範囲について②

下請法の禁止行為について①

下請法の禁止行為について②

下請法の禁止行為について③

割引困難な手形の交付の禁止について

下請法の禁止行為について④

『買いたたき』の禁止について

買いたたきの禁止に関する詳細解説①

買いたたきの禁止に関する詳細解説②

買いたたきの禁止と下請代金の減額

下請法の禁止行為について⑤

下請法の禁止行為について⑥

下請法の禁止行為について⑦

親事業者の義務と3条書面

※今回のコラムでは一部法律問題を扱っておりますが、一般論も含め正確な記載をこころがけているものの、執筆当時の状況でもあり、また必ずしも公正取引委員会等の公式見解でもない点についてはご留意ください。

また、下請法全般について網羅的に記載している訳ではありませんので、ここに記載がないからといって適法性が保証される訳でもありません。

実際の実務において当コラムの内容を適用する際には、事前に必ず公正取引委員会や顧問弁護士等に問合せを行い、十分な検討を社内で行っていただくようお願い申し上げます。